そんな願いを応募していただいたのは、大阪にお住いのNさん。幼少期の事故で左腕のひじから下を失って以来、右手で生活のすべてをまかなってきました。
Nさん 『物心ついたときから片手だったので、日常生活で困ることはほとんどありません。でも、ゴムの義手は気味悪がられることもあったり、スポーツなど一部できない動きがあったりで、幼い頃は悔しい思いをすることもありました。
そんなとき、新聞で見た筋電義手に興味をひかれ、調べていくうちにYouTubeで筋電義手を使って、2人でジェンガをやっている動画を見つけました。あんなことができたらいいなと思ったんです。
動く左手があったなら、コップで水を飲んでみたい。健常な方からすれば、些細な、小さすぎる願いかもしれませんが、自分にとっては切実な願いなのです。』

義手は機能面から、『装飾義手』『能動義手』『筋電義手』に分かれます。
『装飾義手』は、文字通り見た目を補うのみで動かないもの。
『能動義手』は、肩でケーブルを引く動作を行うことで、手のひらやひじを動かすもの。
そして『筋電義手』は、腕の切断部分に残った筋肉が動く際に発する微弱な電流(筋電)を読み取り、それに応じた動きをモータで再現するものです。

数か月のリハビリが必要だとすると、願いの実現に数か月かかってしまう…
この願いは、CaNoWでは実現できないのではないか。
そんな思いがよぎった時、CaNoWスタッフは『直観的な操作を可能としており、最低限の操作を3分程度の初期設定と少しの訓練で習得できます。(※)』と銘打たれた、最新のAI(人工知能)を用いた筋電義手を見つけました。

ただし『長く欠損肢を使っておらず、筋肉の動かし方を忘れてしまっていたり、そもそも切断面の形状が合わずに装着できなかったりすると、もしかしたら当日動かせない場合もある』とのこと。
本当に筋電義手が動かせるのかは分からない…『それでも憧れの筋電義手をつけてみたい』と大阪からはるばるお越しくださったNさんとともに、CaNoWスタッフは、国立大学法人 電気通信大学の研究員、山野井佑介さんを訪ねました。



Nさんはこの日のために、普段使わない左腕で荷物を持つなど、筋トレをしてきたそう。結果、無事にNさんの左腕の筋肉から、筋電を確認できました。


次は義手を装着。Nさんの左腕の筋肉の動きを、端末に記憶させます。
このとき、Nさんは、失われた左手で『握ったときの筋肉の動き」と『開いた時の筋肉の動き」を行うのですが、いざやってみようとすると長年使わなかった左腕の筋肉を動かすのに一苦労。


※通常はオーダーメードでソケットを作成するため、ある程度の重さまでは持ち上げることが可能です。

そして、いよいよNさんの願い『水を飲みたい』にトライ!コップやペットボトルでは、こぼれてしまう可能性があるので、フタ・ストロー付き容器の飲料に変更して挑戦です。

Nさんの左腕も、義手の重みと慣れない動きで、かなり疲れている様子でしたが、あきらめずに何度も何度も挑戦を続けます。20回ほどのトライで、とうとう成功!

念願の『水を飲む』を実現してNさんも大満足の様子。
Nさん「こんな…当たり前のことが…自分にとっては本当にうれしくて…。もう言葉になりません。本当に、ありがとうございました。」
さらに、Nさんに事前にいただいていた、3つのリクエストにも挑戦。
・いつか見たYouTubeの動画のように、ジェンガをしてみたい
・お札を数えてみたい
・両手でステーキを切ってみたい





『こんなに自分でナイフとフォークを使って食べるのがおいしいとは思いませんでした…」
念願の達成に、思わず目尻に涙がにじみます。


CaNoWは、医療を取り巻く技術の発展を今後も応援していきます。
