右の眼球を残しながら再びつらい治療を受けるか、それとも思いきって摘出するか…。家族全員で悩みました。最終的には、ゆうきくんの意向も尊重した上で、右の眼球を摘出し、義眼を装着する決断をしました。

企画実施前にオンラインで打ち合わせ。
「6歳になり自分の状況がわかるぶん、手術室に送り出す時は私も本人もつらかったです。眼球を摘出した日、ゆうきはショックを受け、2日間ほどしゃべりませんでした」
6歳の男の子が直面した、眼を失うという大きな試練。ゆうきくんを一番そばで見守ってきたひろこさんは、「治療を頑張った息子にご褒美をあげたい」と、CaNoWに応募されました。
■ 遠出といえば病院ばかりだった
CaNoWスタッフがゆうきくんにヒアリングすると、「家族でお出かけしたい」との答えが返ってきました。じつはこの病気の診断を受けられる医療機関が東北にはなく、ゆうきくん親子は宮城と東京を何度も新幹線で往復することになりました。外出といえばいつも病院ばかり。家族揃って遠出する機会がなく、さびしい思いをしていたのです。
さらに、ゆうきくんの好きなものをたずねると、ゲーム「スプラトゥーン」(任天堂)と動物との触れあいなどが挙がりました。
スプラトゥーンはインクを噴射し、塗った面積を競う大人気ゲームです。そこでCaNoWスタッフは、実際に体を動かして「リアルスプラトゥーン体験」ができる施設と、近くの「鴨川シーワールド」を訪れる、1泊2日の家族旅行を提案しました。
■ 初めて見るシャチのパフォーマンスに大興奮!
旅の初日。東京駅に、ひろこさんとゆうきくん、父親のようすけさん、姉のみゆさん(中1)、兄のはるきくん(小5)が姿を現しました。CaNoWスタッフと合流し、タクシーに乗車。ここからはドライブを楽しみながら、目的地を目指します。この日を待ちこがれていたのは、ゆうきくんだけではありません。事前にひろこさんは、こう語っていました。
「今回の企画は、お姉ちゃん、お兄ちゃんも楽しみにしています。ずっと置いてけぼりだったから、『どこか行けるの!?』って(笑)」
途中、東京湾上の高速道路にあるパーキングエリア「海ほたる」で下車。海を一望できる絶景が自慢のスポットです。望遠鏡をかわるがわるのぞき込むなど、一家の仲の良さが伝わるひとときでした。




■ 治療をともに闘った友達と、およそ4年ぶりの再会
翌日は、千葉県鋸南町にあるコワーキングスペース「鋸南エアルポルト」へ。旅のメインイベントである「リアルスプラトゥーン体験」の実施会場です。ここで懐かしい再会が待っていました。ゆうきくんと同じ網膜芽細胞腫を持ち、0~2歳まで同じ東京の病院で治療を受けていた男の子とお母さんが、リアルスプラトゥーンに参加するために来てくれたのです! その男の子も義眼を装着しており、ゆうきくんと同じです。
母親同士は闘病を励まし合い、現在もLINEで交流を続ける仲ですが、ゆっくり会うのは久しぶりとのこと。「大きくなったね」と、子ども達の成長に目を細めます。
子ども2人は当時は幼かったため、お互いの記憶はありません。しかし、すぐに打ち解け、元気いっぱいに走り回る姿は、まるで昔からの親友のようでした。
さて、いよいよリアルスプラトゥーン体験の始まりです。ゆうきくんが普段から熱中しているゲームの世界を体感できる、またとない機会です。
汚れを気にせず思いきり遊べるよう、レインコートを着用。その後、好きな色の絵の具を混ぜて「インク」を作ります。準備が整ったら、大人チームと子どもチームに分かれて対戦スタート!



■ 同じ病気を持つ子の親の励みになりたい
企画終了後、ゆうきくんは、「大好きなお姉ちゃん、お兄ちゃんと、新幹線に乗って旅行できたことが本当に嬉しい」との感想を寄せてくれました。また、ひろこさんによると、ある「変化」もあったそうです。同じ病気の友達が自信たっぷりに振る舞う姿に接したことで、ゆうきくんの中にも「堂々としていていいんだ」との気持ちが芽生えたのでしょう。旅から帰ってからは、眼のことを気にするような言葉を口にしなくなったというのです。

今回の企画を通して、友達から元気をもらったゆうきくん。今度はゆうきくんの元気が、同じ病気を持つ子どもと、その家族の自信につながっていく未来を、CaNoWスタッフも応援しています。