CaNoWの原点は看護師として多くの患者さんと向き合った経験
───CaNoWはどのような背景から立ち上がったプロジェクトですか?

老人保健施設には、認知症や脳卒中による後遺症を抱えている患者さんが多く、何を行うにしても誰かの手を借りないといけない方がほとんどでした。また、患者さんの楽しみはテレビを見ることぐらいで、1日をボーっとして過ごす患者さんも少なくありませんでした。私はそんな患者さんたちの姿を見て、もどかしさを感じるようになりました。
「患者さんに、もっといきいきと生活してほしい」と考えた私は、患者さんたちに楽しんでもらえる方法を考え始めました。まずは、患者さんに読書をしてもらうために本棚を設置してみました。多くの患者さんが楽しめるように、さまざまなジャンルの本を集めたところ、皆さん喜んで本を読んでくれました。そこで、みんなで歌を歌う機会や、施設の外へ出かける機会を設けるなど、患者さんが楽しめるような、さまざまな工夫を凝らしていきました。すると、患者さんたちの表情がいきいきと変わっていったんです。
多くの患者さんとお話するなかで、「生活を楽しむこと」が患者さんの「前向きに生きる力」につながっているのだと実感しました。また、患者さんたちは、病気になる前は趣味などやりたいことを自由にできていたのに、病気になったことでそれらを諦めなくてはいけない環境にいたのだ、と気付かされました。
この経験から、私は「もっと多くの患者さんの生きる力を引き出す仕事をしたい」と考えるようになり、医療現場を離れ、日本最大級の医療系IT企業であるエムスリー株式会社で働くことを決意しました。
───エムスリーに入社後、CaNoWをどのようにして立ち上げたのでしょうか?
社内で新規プロジェクト立ち上げの話が持ち上がった際に、CaNoWのアイディアを提案したことから始まりました。立ち上げは想像していた以上に難しく、特に「患者さんの願いを、どのように叶えていくか?」という点で悩まされました。患者さんの願いを叶えるためには、もちろんお金がかかります。例えば、患者さんの「旅行をしたい」という夢を叶えるためには、交通費や宿泊費などの費用の他に、看護師など医療スタッフの人件費、場合によっては旅行先での医療施設の手配など、さまざまな費用がかかります。しかし、私たちは、患者さんに一切費用負担のかからない形のサービスにしたいと考えました。患者さんは、日常的に治療や介護費用がかかっており、その他にも多くのサポートを受けているため、「やりたいことがある」と言い出しにくいのではないかと考えたためです。費用負担のかからない形のサービスにすることで初めて、患者さんはやりたいことを自由に考えられると思うのです。患者さんは費用を負担せず、かつ、患者さんの願いを叶え続けられる仕組みをどのようにつくるか…私たちは、多くの時間をかけて模索しました。そして、最終的にたどり着いたのが「CaNoWの趣旨に賛同してくださる企業にパートナーとして協賛いただく」という選択肢です。パートナー企業の想いと患者さんを繋ぐかたちで、願いの実現に協力いただくことにより、基本的に患者さん側の費用負担がないかたちで、願いを叶える活動を実現できるようになりました。
───「CaNoW」という言葉には、どのような思いが込められているのですか?
CaNoWは、患者さんの願いを「叶える」という言葉とともに、「Can(できる)」「Now(今)」という言葉を組み合わせて名付けました。「患者さんの願いを共に実現しながら、生きる意味を創造し続ける」ことを大切に活動しています。CaNoWでは、願いを実現する前に、患者さんにお話を伺う機会を設けています。患者さんがなぜその願いを叶えたいと思っているのか、その背景を理解することがとても大切だと考えるからです。看護師時代、多くの患者さんと向き合うなかで私は「患者さんの願いは、患者さんの人生そのものだ」と感じてきました。願いの背景にある患者さんの思いを知り、その思いに寄り添って願いを実現することで、患者さんの生きる力を引き出すことにつながると信じています。
患者さんの家族旅行や思い出の地巡りをサポート、映画公開記念キャンペーンも開始
───CaNoWでは、どのような願いを叶えるお手伝いができるのでしょうか?
具体的には、「家族と旅行をしたい」「思い出の地を巡りたい」「コンサートに行きたい」といった願いを叶えるお手伝いを行っています。これまでに、車椅子生活を送るがん患者さんを、緊急入院によって突然行けなくなってしまった職場へ2年ぶりにお連れした事例や、認知症患者さんと乳がんの娘さんを、生まれ故郷を巡る旅にお連れした事例などがあります。夢を叶えた患者さんからは「車椅子による移動も、特に心配することなくできました」「今度は別の場所にも行ってみたいです」といった声が寄せられ、同行されたご家族からは「本人は元気になって気持ちに張りが出た様子です」「看護師さんがいてくださったことで、私も気持ちが楽でした」などの声をいただきました。
───新たに始まった映画「最高の人生の見つけ方」公開記念キャンペーンについて教えてく《さい。
10月11日(金)全国公開される映画『最高の人生の見つけ方』は、余命宣告をされた女性2人が、今までの自分なら絶対やらなかったことに挑戦し、生きる喜びを感じるチェンジングムービーです。エムスリーの展開するプロジェクト『CaNoW』も映画同様、患者・介護者が今まで出来なかったことへの挑戦をサポートし、前向きに生きる力を引き出すという点で共通するコンセプトがあります。今回、映画のストーリーになぞらえ、10名の患者さん・ご家族の「やりたいこと」を募集し、その「願い」を叶える企画を開始しました。Twitter企画も連動していますので、ぜひ皆さんの願いをご応募いただければと思います。また、家族や友だちなど身近な方が病気で困っている…という場合もあると思います。そのような場合は、今回のキャンペーンを通じて「患者さんの願いを叶えるCaNoWっていうものがあるよ」とお伝えいただけると嬉しいですね。
より多くの患者さんへ、前向きに生きる力や治療に向かう勇気を引き出すお手伝いを
───今後、CaNoWとしてどのような活動に取り組んでいきたいですか?
今後は、外出が難しい患者さんであっても、VRを使って、病院や介護施設にいながら患者さんがその場所を体感できるような取り組みを行いたいと考えています。これによって、今は願いを叶えるお手伝いができていない患者さんに対しても、お手伝いができるようになります。ずっと行ってみたかった土地や、好きなアーティストのコンサートなど、より多くの患者さんに感じてもらいたいですね。また、患者さんの願いを叶える活動の他にも、患者さんを応援する活動を積極的に行いたいと考えています。例えば、診断を受けたばかりの患者さんが抱える不安に対して、同じ病気の経験のある患者さんがサポートする活動や、医療従事者・患者支援団体のご協力を得て、患者さんが病気と向き合うことを支援するコンテンツ制作なども予定しています。
今後も、このようなさまざまな活動を通じて、患者さんの前向きに生きる力や治療に向かう勇気を引き出すお手伝いを行っていきます!(QLife編集部)