「救急車が最期の面会」に…救急医がコロナ最前線で見たもの

この記事は、2020年7月20日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 26 「救急車が最期の面会」に…救急医がコロナ最前線で見たもの」のタイトルで掲載されたものです。

横浜労災病院救命救急センター医長 中川悠樹先生

首都圏を中心に第二波を思わせるような感染の広がりを見せるCOVID-19。徐々にその病態が解明され始めたとはいえ、まだまだ予断を許さない状況が続いています。院内感染対策や、病床不足など多くの医療機関で様々な難題を抱えるなか、患者と患者家族の目線で考えた大きな課題のひとつが「面会制限」ではないでしょうか。ここでは、面会制限問題を解決する一助として、エムスリーの患者支援プロジェクトCaNoW※チームが、ソニー株式会社と取り組む「オンライン面会システム」に注目。救急の最前線で働き、老健施設での診療にも携わる横浜労災病院救命救急センター医長 中川悠樹先生にお話を伺うとともに、オンライン面会システムを体験していただきました。

見えないウイルスとの戦い「救急車が最期の面会」の現実も

中川悠樹先生と山口周吾さん

【お話を伺った方】
右:横浜労災病院救命救急センター医長 中川悠樹先生
左:ソニー株式会社 事業開発プラットフォーム 新規事業化推進部門長 山口周吾さん

─── まずは中川先生、COVID-19以降の医療機関の実態について、とくに面会制限の側面からご教示いただけますでしょうか。

中川先生
皆さんご存知の通り、多くの医療機関で全面的に面会を禁止していた時期がありました。最近では少し条件を緩和する施設も出てきましたが、病院によってはまだまだ厳しい状況が続いていると聞きます。

とくに、COVID-19の実態が見えない初期には、救急医である僕たちも手探りで戦っている状態。たとえば心肺停止などで、救急車で運ばれてきた患者さんも、ご家族とは救急車を降りる時点が、最期の面会となることもありました。付添もお別れもできないまま、最期を迎えられた患者さんも多数いらっしゃいました。

もし自分がご家族の立場だったら…と考えると、胸が詰まります。「もう会えません」という主旨の説明をすると、なかには「そうですか…」と淡々とした様子の方もいらっしゃるのですが、「何としてでも会いたい…」と悲痛な様子の方もいらっしゃいます。家族背景が最期に反映されるのだな…と不思議な思いに駆られたりもしました。

少しずつ、家族背景に応じて面会制限を緩めることもあるかと思いますが、どこまで面会していいのか、現時点でもはっきりとは決められない部分があります。こうした状況は病院ではもちろん、老健施設などではよりシビアではないでしょうか。

─── よりシビアとは?

中川先生
当然のことながら老健施設に入所されている方は、皆さんハイリスクの高齢者です。万が一クラスターが発生することになれば、施設中一気に蔓延してしまう。ではどこの病院で受け入れられるのか?と考えると、どこも病床やマンパワーに余裕がないという最悪の場合、その施設自体を諦めなければ…という非情な判断を迫られることも想定されます。

こうした事情を考慮すると「面会はすべてシャットアウト」とせざるを得ない状況も理解できます。自分が経営者だとしても、可哀想ですが…その選択をすると思います。もちろん、長く滞在されている方らが、今まで会えていたご家族に急に会うことができなくなることで、ストレスが溜まり、悶々とする日々となることは容易に想像できます。
話し合う中川悠樹先生と山口周吾さん

オンライン面会で患者QOLに寄与できるか

─── こうした状況を改善するための選択肢として、エムスリーの患者支援プロジェクトCaNoWチームとともに、ソニーが「オンライン面会システム」の開発に乗り出しました。このシステムについて、お聞かせ下さい。

山口さん
新型コロナ禍に対するソニーの取り組みとしては、「新型コロナウイルス・ソニーグローバル支援基金」という総額1億USドル(約108億円)の支援ファンドを立ち上げています。
「医療関連」「教育」「クリエイティブコミュニティ」を主な支援領域として開始した取り組みで、国境なき医師団への寄付や、医療用フェイスシールドの製造及び寄贈など様々な活動をする一環として、エムスリーの患者支援プロジェクトCaNoWとの協業によるオンライン面会システムの開発が始まりました。

医療現場における面会制限の問題は私たちにも聞こえておりましたし、幸いソニーのもつデバイスや技術でそれを解決することができるかもしれない。今回はソニーのスマートフォン「Xperia™」を使うことで、どなたにも簡単にお使いいただけるオンライン面会システムを実現しました。

─── すでに様々なアプリを使ったテレビ電話が存在する中、Xperiaを使ったシステムを使うメリットはどこにあるのでしょう?

やはり「どなたでも簡単に使える」という点です。ご高齢の方やお子様の場合、スマートフォンをお持ちでない方も多く、入院したからといって新しく契約をするのも難しいでしょう。そんなとき、病院でこのシステムを備えておけば、スマートフォンをお持ちでない方でも気軽にご家族と繋がることができます。

また、余計なアプリを一切入れず、シンプルにしたことで、操作がひと目でわかるようになっています。通常のスマートフォンですと、さまざまなアプリが内蔵されているため、どのボタンを押せばよいか分からない…という声も聞きます。こうした点に配慮したのが、Xperiaのオンライン面会システムです。
Xperiaのオンライン面会システム
Xperiaのオンライン面会システム。画面上に表示されるアプリは1つだけ。
タップするとペアのXperiaに繋がるので、スマートフォンに不慣れな方でも迷わず操作ができます。

医師が実践「誰でも簡単に使える」オンライン面会システムの真価

─── では実際に中川先生にお使いいただきましょう。

中川先生
たしかに画面がシンプルでタップするだけなので非常に簡単ですね。あまりにも簡単でスマートフォンらしくないな(笑)相手の声もはっきり聞こえます。確かにいいですね。画面が横長なので、複数人が一緒に会話できるのもよさそうです。

山口さん
長期間入院されている方など、久しぶりに家の背景を見られるだけでも気分が変わりませんか?

中川先生
そうですね。そうした意味でも、医療現場での負担を考えても、急性期よりは、ある程度状態の落ち着いている入院期間の長い患者さん。お子さんだと、両親は会えても兄弟には会えなかったりするので、そういうケースにはいいかもしれないですね。あとは、老健施設では活用できると思います。

山口さん
このXperiaを、ブラビア®の画面と繋ぐと、大画面でのコミュニケーションもできるんですよ。
Xperiaのオンライン面会システム
Xperiaで繋いだオンライン面会の様子を、大画面のブラビアに接続。
端子をひとつ追加するだけなので、IT機器に不慣れな医療スタッフでも簡単に接続可能です。
中川先生
これもいいですね。これだけ大画面ですと、コミュニケーションもリアルですし、患者さんの心の癒しにもなりそうです。

実際に医療現場や老健施設で使うなら、Xperiaを支える台がひとつあるといいですね。患者さんの中には手指に力が入らず、自力でスマホを持てない方もいらっしゃいます。そうした方が、医療スタッフの付き添いなしでも気軽に使えるようになるとよさそうですね。

あとは、脳梗塞などで会話ができない人向けに、ごく簡単なスタンプのようなものがあるといいんじゃないかな。意思疎通ができたという満足感にも繋がるのでは。

山口さん
それはいいですね。検討してみます。
今回はオンライン面会という主旨で紹介しましたが、たとえば離れて住んでいたり、仕事で忙しくて来院ができないご家族へのオンラインインフォームドコンセントや、感染症が疑わしい患者さんに対する院内オンライン診療、病室と繋ぎっぱなしにしても見守りカメラのような使い方もできるのではと期待しています。

中川先生
インフォームドコンセントなどは僕たち医師にとってもメリットが大きいですね。あとは、例えば認知症患者さんの見守りや、ナースコール代わりの使用なども活用できるかもしれません。

山口さん
今後の開発によっては、映像と音だけでなく、SpO2や血圧など患者さん情報を常時モニタリングしたり、病院内にいながらにして音楽鑑賞やスポーツ観戦が楽しめたりするような方向での活用も考えています。

中川先生
いいですね。病気の方って、どうしても遊びに行く、音楽を聴きに行くなど、楽しむ方向に気持ちが向きにくい部分があるように思います。そういう臨場感を味わうことが気持ちの面にプラスに影響しそうですね。

山口さん
はい、新型コロナ禍だけでなく、今後も長く使っていただけるようなシステムにできるよう、これからも改善を加えながら提供していきたいです。

※CaNoWとは病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクト。これまでに「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「生まれ育った土地をもう一度観に行きたい 」などの願いをサポートしてきました。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

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