全例PCRに看護師退職も…女子医大 新浪副院長の思いは

この記事は、2020年7月31日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 27 全例PCRに看護師退職も…女子医大 新浪副院長の思いは」のタイトルで掲載されたものです。

東京女子医科大学病院 心臓血管外科教授 新浪 博士(にいなみ ひろし)先生

総病床数1,194。全国トップクラスの病床数を誇る東京女子医科大学病院。COVID-19拡大以降は、疑い患者専用病床として中央病棟4階44床を21床に、糖尿病センターをCOVID-19専用病棟として61床を28床に、重症患者のために救命ICU12床を6床と、COVID-19対応病床55床を確保。PCR検査は200~300件/日に体制を拡大し、東京都下の医療を守る砦のひとつとして日夜奮闘を続けています。一部報道では、看護師の退職問題なども取りざたされた同院ですが、その内部では医師と看護師が一枚岩となって、患者貢献を果たそうという取り組みが続いています。新浪博士先生率いる心臓血管外科病棟が全国に先駆けて導入した「オンライン面会システム※」もそのひとつ。ここでは、日本のトップ心臓外科医の御一人である新浪先生がCOVID-19渦中で感じた医療の実情、そしてオンライン面会システムの意義についてお話を伺います。

※エムスリーの患者支援事業CaNoW(カナウ)とソニー株式会社の協業により、COVID-19に伴う面会制限への対応策として考案。ソニーのスマートフォンXperiaTM(エクスペリア)を用い、「誰でも簡単にワンタッチで操作ができる遠隔面会」を実現。

心臓手術も不要不急…?緊急事態宣言 解除後に増加した重症例

─── 新浪先生は、年間700症例の手術に関わる、日本のトップ心臓外科医の御一人でいらっしゃいますが、COVID-19以降、仕事においてどのような変化がありましたか?

女子医大では日本国内でCOVID-19が話題となる以前の2月、誰もがこれほどまでに拡大するとは予想しえなかった段階から総合外来センター前に発熱外来用のテントを設置しました。さらに、感染拡大以降は、入院患者さんの全例に対してPCR検査を実施、救急での患者さん等は検査結果が出るまでのグレーゾーン対応などのトリアージを徹底しています。もともと自前でPCRができる体制があったことも幸いしましたが、現在では200~300件/日のPCR検査が可能です。「決して院内感染を起こさない」という強い思いを持って体制を整えてきました。

こうした職員全体の協力もあり、私たち心臓血管外科ではこれまでと変わらずに患者さんを受け入れ、オペができるだけの準備はできていました。心臓手術は命に関わるものであり、不要不急ではないと考えていたからです。

ところが、緊急事態宣言やSTAY HOMEなどの影響もあってか、患者さんが受診を控えられ、救急患者さんや心臓移植も激減し、心臓手術数が約半数にまで減少する事態に発展したのです。

ご存知の通り、日本国内での死因は悪性新生物や、心疾患・脳血管疾患が多く、こうした疾患は本来「不要不急」には当てはまらないはずなのですが、COVID-19を恐れて受診をしない。とくに心疾患に関しては、COVID-19重症化のリスクが高いとされるご高齢の患者さんが多く、しかも家で動かずにいると症状が出にくいケースもあることが影響したのかもしれません。

そうした状態が2か月ほど続き緊急事態宣言が解除されると、今度は重症例が続くようになりました。おそらく、我慢に我慢を重ねていたのでしょう。「もっと手前で来ていればこんなことには…」と考えさせられる患者さんも少なくありませんでした。

先日、東京都内の4月の死者数が例年よりも多いことが発表されました※。COVID-19の診断がつかないまま相当数の方が亡くなったのでは?という見方もあるようですが、私はむしろ、より重大な疾患を抱えた患者さんが、受診を控えたために命を落としてしまった可能性もあるのではないかと考えています。

※過去5年間、東京都の4月の平均死亡者数は9,049人。2020年は 10,107人で、例年を約12%上回る。(東京都総務局統計部

現時点では、日本国内のCOVID-19患者さんは軽症例が多い。かといって感染を恐れる患者さんを相手に、私たち医療者側が「大丈夫ですから来てください」とは、簡単には言えません。だからこそ、入院患者さんに対する全例PCR検査などの対策を徹底して、安心して来院いただける環境を整える必要があるのです。

新型コロナ対応のために117床を捨て――ボーナス問題の追い打ち

─── 全例PCR検査に関しては、どの医療施設でもできることではありませんよね。

女子医大は過去に2度、患者さんの信頼を損なうような出来事がありました。そうした教訓を活かし、絶対に院内感染を起こさないのだ、という医療安全への強い思いを持っているということです。

同時に、今後もCOVID-19患者さんが増えることを見据えて、女子医大では糖尿病センターをCOVID-19専用病棟としました。これは病院経営の観点からは、非常に大きな決断です。糖尿病センターにCOVID-19病床を28確保するために、残りの117床を稼働させない。さらに通常であれば7:1看護、ICUでも2:1看護のところ、COVID-19病棟では1:2~3看護を行っています。現場にも大きな負担がかかってしまいました。

─── 一部報道では、看護師さんへのボーナスや一斉退職の問題なども取り上げられました。

私は当院の副院長も務めていますが、患者数、オペ数が激減して経営が苦しい中で、経営陣もなんとかできないものかと頭を悩ませていました。国は、病院に資源を投入すると言ってはくれるものの、現実問題として現場には下りてきていません。

こうした状況の中で、各方面に頭を下げて、なんとかボーナスを支給できる目途も立ちました。マスコミや世間の声に押されて、払うことに決めただとか、そういうことではない、というのはご理解いただきたいところです。

院内感染を防ぐために…面会制限の問題をどうする?

─── 院内感染対策への強い思いがあるからこそでしょうか、入院患者さんへの面会制限も続いていますね。

そうですね。患者さんのご家族にまでPCR検査を受けていただくわけにはいきませんから、現在も原則面会をご遠慮いただいています。緊急事態宣言が明けてから制限を緩めた施設もあると聞いていますが、当院ではそうした対応はしていません。

─── ご家族の面会制限があることで、入院患者さんの治療や回復に影響が出ることはありますか?

もちろんあるでしょう。「病は気から」という言葉もあるように、精神面での不安から不穏になる方もいらっしゃいます。こうした精神面のフォローとして、「オンライン面会システム」を試験的に導入しました。
COVID-19拡大下、東京都下の医療を守る砦のひとつとして奮闘の続く東京女子医大病院。感染対策、医療安全に対する強い信念をもち、入院患者さん全例のPCR検査、トリアージの徹底を行う同院では、現在でも面会制限が続いています。この面会制限に対し、全国に先駆け、新浪先生率いる心臓血管外科病棟で取り入れられた「オンライン面会システム」について。次回詳しくお話を伺います。

新浪 博士(にいなみ ひろし)先生

【ご略歴】
新浪 博士(にいなみ ひろし)先生
東京女子医科大学病院 心臓血管外科教授

1962年神奈川県横浜市生まれ。群馬大学医学部卒業後、東京女子医科大学大学院修了。
東京女子医大附属日本心臓血圧研究所(現 心臓病センター)に入局し、米ウェインステート大学、豪アルフレッドホスピタル等に留学。
帰国後は順天堂大学医学部附属順天堂医院を経て埼玉医科学病院心臓血管外科教授。
2017年より現職。現在、国内外で年間約700症例の心臓血管外科手術に関わる、日本のトップ心臓外科医の一人。



※CaNoWとは病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクト。これまでに「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「生まれ育った土地をもう一度観に行きたい 」などの願いをサポートしてきました。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

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