大病の後遺症で下半身麻痺でもアウトドア!医師が驚く回復力

この記事は、 2021年9月22日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 42 大病の後遺症で下半身麻痺でもアウトドア!医師が驚く回復力」のタイトルで掲載されたものです。



京都府に住む眞浦修さん(63歳)はもともと大のアウトドア好きで、毎年、家族で海水浴旅行に出掛けていました。ところが2020年夏、旅先で急性大動脈解離を発症。緊急手術を受けて一命を取り留めましたが、左下半身麻痺や膀胱障害などの後遺症が残りました。「以前のように、家族でアウトドアに出掛けたい」――。その願いを叶えるべく、CaNoW※に応募されました。障害があっても自然を楽しみ、思い出を作ることはできる。そう体現された眞浦さんの旅をレポートします。

「一生、立てないんじゃないか?」と悲観したが…

夏の海水浴旅行は、家族全員にとって毎年の楽しみ。眞浦修さん(63歳)は、例年のように妻の博子さん、長女の怜奈さん(26歳)、次女の麻衣さん(23歳)と兵庫県の旅館でくつろいでいました。
すると突然、背中や腹部に激痛が走り、立ち上がることができなくなりました。今まで経験したことのないほど強い痛みです。現地の病院に救急搬送されると、医師からは「急性大動脈解離Stanford A型」と診断されました。緊急手術が行われ、幸いなことに命は助かりました。しかし……。

「左下半身麻痺や膀胱障害が後遺症として残りました。毎年、海釣りや海水浴を楽しみにしていたのに、もう行くことができないのかなと、大変落ち込みました」(眞浦さん)

眞浦さんのアウトドア歴は長く、中学生時代にさかのぼります。仲間と無人島に渡り、テントを張って過ごした一晩が懐かしいとのこと。高校から大学生の頃には、小中学生をキャンプに連れて行くボランティアに参加し、屋外でインスタント麺を調理したり、飯ごうでご飯を炊いたりした思い出があるそうです。
「いつか妻と、二人の娘を連れて一緒にキャンプをしたい」。そう思っていた中での急性大動脈解離でした。

1ヵ月半の入院をへて京都の自宅に戻った眞浦さんは、リハビリに打ち込みました。はじめは、あまりにも自分の体が動かないため、「一生、立てないんじゃないか?」と悲観したそうです。それでも、再び歩けるようになりたい一心で、医師に指導された以上のリハビリをこなし、車いすから歩行器、杖を経て、自立歩行の能力を取り戻しました。担当の医師は驚き、看護師は涙を流して喜んだそうです。

ただ、自立歩行ができるとはいえ、長時間歩いたり、坂道や階段の上り下りは負担がかかります。無理をすると左脚に力が入らなくなり、座り込んでしまうこともあります。さらに、眞浦さんを悩ませるのが、排尿の問題でした。膀胱障害があるため自力で排尿できず、4時間に1回は自己導尿が必要でした。清潔なトイレのない場所には出掛けづらく、アウトドアの再開はハードルが高いと感じていたそうです。

そこで眞浦さんはCaNoWに相談されました。ZOOMを使ったオンラインミーティングを重ね、CaNoWスタッフからは「グランピング」体験を提案しました。グランピングとは、グラマラスキャンピングの略称で、高級ホテル並の宿泊施設でキャンプ場と同様の経験ができるレジャーのこと。コテージや食事の材料などは用意されているため、眞浦さんに過度な負担がかからないと予想されました。

下半身麻痺でも負担が少ないカヌーに挑戦

眞浦修さんとご家族
2021年6月上旬、「伊勢志摩エバーグレイズ」(三重県)の協力を得て、眞浦さんの願いを叶える日を迎えました。同施設はバリアフリーに積極的で、障害者や高齢者も利用しやすいグランピングを提供しています。今回、宿泊するコテージは、湖に面した開放的な空間。あらかじめCaNoWスタッフが必要な設備を伝え、準備をしていました。
最も重要なポイントは、トイレです。清潔かつ、尿道カテーテルのケースを掛けておく場所が必須でしたが、予定通り眞浦さんの希望に叶うトイレでした。また、キッチンや寝室も含め、コテージ内はすべてホテル並の清潔感です。室内を確認した眞浦さんも、安心した様子でした。

さて、この日のメインアクティビティはカヌーです。脚に負担をかけず、豊かな自然を楽しむ方法として、CaNoWスタッフから提案しました。二艘のカヌーに眞浦さんと妻の博子さん、二人の娘さんに分かれて乗り、力強くオールをこぎます。緑に囲まれた湖をゆったりと進むカヌー。その様子は自由そのもので、後遺症があることを忘れさせてくれそうでした。
娘さん達が笑顔でカヌーを漕ぐ姿に、目を細める眞浦さんご夫婦。博子さんは、「元気をもらえた。前向きになれる」とリフレッシュできた様子でした。

梅雨時でしたが天気に恵まれ、気温が高かったため、CaNoWの看護師スタッフはこまめに水分補給を促し、眞浦さんが疲れていないか確認。安全を確保しながら時間は過ぎていきました。

患者が自分らしく生きるために、医療者ができること

眞浦修さんとご家族
夕食は、コテージのテラスで豪華なバーベキューでした。本格的なグリルが備わり、調理器具や調味料、食材も用意されているので、手軽に楽しむことができます。博子さんと娘さんたちがステーキや魚介類を焼いていると、眞浦さんも立ち上がって参加。若かりし頃のキャンプ料理を思い出したように、調理器具を扱っていました。

テーブルにご馳走がそろい、家族で乾杯! 病に倒れた時から入院中のこと、そのほか家族の思い出などを語り合います。辺りが暗くなると、眞浦さんが希望していた焚き火の時間。ファイヤーピットにゆらめく炎を見つめながら、満ち足りた時が流れました。

ここで、眞浦さんからのサプライズ。家族一人ひとりへの思いを込めた手紙をご用意していただいたのです。実は、眞浦さんは急性大動脈解離を患ったあと、勤務先の会社から解雇されていました。本人も辛かったはずですが、妻の博子さんへの手紙では「ヒロちゃんは精神的に大変だったと思います。退院後『ゆっくりしたらいいよ』と言ってもらって感謝しかありません」と労りました。博子さんの目にはうっすらと涙が……。
二人の娘さんにも、日頃思っていても口にしていなかった愛情を、手紙で伝えました。

翌朝、テラスですがすがしい風に当たりながら、眞浦さんは「最高でした」と今回の旅を振り返りました。長女の怜奈さんも、「もう一緒に旅行はできないと思っていたので、すごくいい思い出になりました」と語ります。
左下半身麻痺や自己導尿という外見からわかりにくい後遺症と、日々向き合っている眞浦さん家族。困難はあっても自分らしく生きようとする姿からは、チャレンジを諦めない大切さや、医療職にできるサポートはまだまだ多いことに気づかされます。

旅から数日たったある日。眞浦さんからCaNoWスタッフにメールが届きました。
「家族全員で大変楽しい2日間を過ごさせて頂く機会を与えてくださり、本当にありがとうございました。CaNoWに参加したことで、次は釣りに挑戦したいと思うようになりました」

旅の時間は、眞浦さんの可能性を大きく広げることができたようです。
※CaNoWとは、病気や障がいを理由にかなえられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクトで、企業やその従業員の寄付やサポートで患者さんの願いを叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

このプロジェクトには、CaNoWの理念に共感したノバルティス ファーマ(株)の従業員が寄付しています。

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