はじめは吐き気などの症状でしたが、徐々に進行して歩くことができなくなり、耳も聞こえなくなりました。手術や化学療法、放射線治療を受け、一時は穏やかな状態でしたが、高校1年生の時に再発。その2年後にも再再発しました。
現在は、1日のうち長い時間をベッドで過ごしています。それでも、前向きに生きる気持ちは失わず、二十歳を迎えた今年、成人式への参加を楽しみにしていました。しかし、新型コロナウィルスの影響で成人式は二度も延期に……。母親の伯美(のりみ)さんは、何とか家族の思い出を残す方法はないかと考え、「自宅で家族写真を撮りたい」と思い立ちました。
「以前、家族全員の似顔絵を描いてもらったことはあるんです。自分で撮った写真を送り、それに似せて描いてもらうサービスを利用しました。でも、やっぱり私は写真を残したくて」(伯美さん)
家族の表情、温かさをそのままカタチにするため、プロのカメラマンによる写真撮影を希望されました。

長男・裕介さん、三男・大成さん。
そこで伯美さんはCaNoWに応募されました。CaNoWでは医療資格を持つスタッフが応募者の願いをサポートするため、安心して家族写真を撮ることができると考えたのです。
応募があった時点で、義文さんは指でタブレット端末を触ってコミュニケーションを取ることができましたが、徐々にそれも困難になっていきました。そのため、プロジェクトは通常よりスピーディーに進行し、約1か月半後には家族写真の撮影を実現しました。
■ 撮影当日
父の圭介さんが義文さんのネクタイをキュッと結び、母の伯美さんが成人式のために用意した真新しいスーツを着させます。CaNoWスタッフはタブレット端末に文字を表示させながら言葉をかけ、伯美さんと一緒に着替えや移動などをサポートしました。撮影は、リラックスした雰囲気で始まりました。「はい、カメラ目線でお願いしまーす!」
リビングに、プロのカメラマンによる掛け声とシャッター音が響きます。写真スタジオさながらの大きなバックスクリーンを背に、車いすに座った義文さん。その佇まいは、まさしく新成人でした。家族のベストショットはこちら。

カメラを向けられると、凛々しい表情。

これには、義文さんも大きく頷き返し、ご家族は「今年は優勝できたらねぇ」「スタートダッシュはいつもいいんだけど(笑)」などと、ほほを緩めます。家族全員でユニフォームに身を包み、笑顔でパチリ。

「家にいることがなかったんですよ。帰ってきたらすぐに野球したり、遊びにいったり」(伯美さん)
義文さんが1~2歳の頃には、お風呂場で転倒して生えたばかりの前歯が折れてしまい、小学生頃まで笑うと前歯がなかったとか。幼かった当時は大慌てしたことも、二十歳となった今は懐かしい思い出です。




「みんなに愛されて、幸せだね」

■ 野球少年が立派な青年になり、感慨深い
最後に願いを叶えられた義文さんに、主治医の藤崎弘之先生(大阪市立総合医療センター小児血液腫瘍科部長)からメッセージをいただきました。今回の企画を聞いて、髙木さん一家らしいなと思いました。義文君の病状が進行しても、いつもお互いに笑顔で支え合っているような、大変仲のいいご家族だからです。
私は、彼が中学1年生の頃から診療していますが、野球が好きだという話はよく聞いていました。中学3年生の頃だったでしょうか。夏の野球大会に出場できず、残念そうにしていたことをよく覚えています。実は私自身もかつて野球に打ち込んでいたので、その気持ちはよくわかりました。
義文君はまじめな性格で、高校生くらいの頃だったか、入院中も病棟の学習室で勉強をしていましたね。目標に向かってしっかり努力する姿が印象に残っています。病気の治療を選択するときも、一つひとつ自分で考え、決定していきました。あの野球好きだった少年が二十歳になり、ここまでしっかりした青年になったと思うと、感慨深いですね。
これからも彼の思いを大切にし、一緒に支えていきたいと思います。