知江子さんは、軟骨肉腫による足の切断を経験した女性です。長年、体調不良とそれに伴う精神的な葛藤を抱え続けてきた彼女に、さらなる壁として立ちはだかったのが「がん」でした。過酷な切断手術を経て寛解へ。それでもダンスへの想いを諦めずにいた知江子さんが、CaNoWとの出会いを通じて、自分を信じる力を少しずつ取り戻していった記録です。
足を切断しても、踊ることを諦めなかった――知江子さんが病気と歩んだ30年と、その先にある人生

- お名前:
- 知江子 さん
- 疾患名:
- 軟骨肉腫
体が悲鳴を上げ続けた日々――長年の心身の葛藤と「足の切断」という試練
知江子さんは幼い頃から体が弱く、アレルギーなどの体調不良が重なっていました。身体がきつくなると心のバランスも崩してしまう、というサイクルがおよそ30年もの長きにわたって繰り返されていたのです。
「体調が落ちると、メンタルも一緒に落ちるじゃないですか。その癖がついていたみたいで、体がきつくなるとドーンと気分が沈んで、今までやっていたこともやりたくなくなることがありました」
やりたいことがあっても、体が言うことを聞かない。ダンスを習いに行こうと思っても、結局体調が悪化して行けなくなる。そんなもどかしい経験を何度も繰り返してきた知江子さん。長年続くその心身の葛藤に追い打ちをかけるように訪れたのが、軟骨肉腫による「足の切断」という過酷な現実でした。 入院した翌日から緊急事態宣言が発令され、手術は次々と延期に。4人部屋に1人残される不安な日々を耐え抜き、ようやく手術を終えた後も、長いリハビリ生活が待っていました。
「これは自分の運命だから」――受け入れることと、前を向くこと
足を切断するという現実を前にして、知江子さんの心の中にはさまざまな感情が渦巻いていました。退院後は、階段の上り下りひとつひとつがストレスとして積み重なり、追い打ちをかけるように父親が亡くなるという出来事も重なりました。それでも知江子さんは、決して周囲の環境や誰かのせいにすることはありませんでした。
「『これは自分の運命だから』と、どこかで受け入れている自分がいたんです。誰のせいでも、何かのせいでもなくて。自分がどうしても逃れられないことなんだろうなと思いました」
切断前の半年間は、毎日夜中になると泣いていたと振り返ります。 それでも、泣くことでバランスが取れると気づいていた知江子さんは、その感情を否定しませんでした。そして、手術後に自分が杖なしで歩いている夢を見た時、「きっとそうなるだろう」という確信が静かに芽生えていったといいます。
「『こうなりたい』と思うと、まだ目標に届いていない今の自分を否定して、無理に頑張らなきゃいけなくなりますよね。でも、『なんか知らんけどそうなるよ』と肩の力を抜いて思っていると、本当にその通りになっていくんです」
杖をついて、一人で東京へ――見えない壁を越えていった日々
退院後、知江子さんはCaNoWという企画に応募したことをきっかけに、ダンスの夢を叶える機会をつかみます。しかし、コロナ禍という状況が、その道のりをさらに複雑なものにしました。
本来ならご家族が付き添うはずだった東京行きを、一人でこなさなければならなくなったのです。何十年ぶりかの東京、しかも杖をついての一人旅。それでも知江子さんは、願いを叶えるため伴走してくださることになった大前さん※に「どうしても会いたい」という一心で、大きな一歩を踏み出しました。 ※東京パラリンピック開会式に出演した世界的ダンサー
「普通の旅行だったら諦めていたと思うんです。でも、やっぱり『今、行かなきゃ』『会いたい』という気持ちが強かったから、1人でも行けました。コロナが逆に、私を強くしてくれた部分はすごくありますね」
コロナ禍という制約は、見方を変えれば、ひとつひとつ小さな成功体験を重ね、 自分を鍛え直す機会でもありました。オンラインレッスンから始まり、少しずつ対面へ。東京への一人旅を重ねるうちに、「ここまでやったら行くしかない」という気持ちへと切り替わっていきました。また、同じく足に障害を持ちながらリオパラリンピックで活躍した大前さんとの出会いは、知江子さんの大きな支えになりました。
「同じ痛みを経験した方とお話しできたことが、ものすごく良かったんです。無理に幻肢痛を消そうとしなくなりましたし、今でも痛む時はありますが、『ああ、今日は痛いんだな』と自然に受け入れられるようになりました」
超えた先に、人生はある――今、苦しんでいる人へ
現在、知江子さんはご自身の経験を生かして、様々な方に寄り添っています。がん治療中の方とつながることもあり、「病気を経験した自分だから話せることがある」と感じています。 CaNoWの企画を通じて1つのことをやり遂げた経験は、自分を信じる力へと変わりました。その力は、東京行きだけでなく、その後の新たな挑戦へとつながっています。
「障がいを持ったり、病気になったりすることが、イコール『弱い』というわけじゃないんです。逆に、それをカバーできるだけの強さを、本当はちゃんと持っていて。弱さと強さは表裏一体なんですよね」
今まさに渦中にいる方に向けて、知江子さんはこんな言葉を贈ります。
「どうしようもない時ってありますよね。でも、そういう時ってそれ以上のことは起こらないんです。抱えきれないことはもう起きないから、必ず超えていける。悩んでオッケーだし、辛いなら泣いてオッケーだし、そのままのあなたでいいんです」
超えた先に、また人生は続いていく。知江子さんはそう言い切ります。自分一人で抱え込まなくていい、サポートしてくれる人がいれば、やりたいことはきっとできる。その言葉は、長い年月をかけて知江子さん自身が掴み取ったものです。
企画を終えて
【CaNoWより】運命や痛みをありのままに受け入れ、夢に向かって一歩を踏み出したお姿に深く心を動かされました。夢への一歩に伴走できたことに感謝いたします。 「そのままのあなたでいい」という優しく力強い言葉は、今困難の中にいる方の希望となるはずです。これからの歩みも心より応援しております。