
東京都に住む安室(やすむろ)早紀さん(29歳)は、脳腫瘍と闘ってきました。もともと自然が大好きで活発な性格でしたが、闘病のため、遠出することが難しい状況でした。そこでCaNoWに「体が動くうちに、家族で自然に触れ合える体験をしたい」という願いを寄せてくださいました。CaNoWはご家族の沖縄旅行を計画しました。ところが、旅行数日前に早紀さんの病状が急変…。ご家族とCaNoWが一丸となって支えた、「願い」の実現をレポートします。
出発数日前に症状が進行して…
安室早紀さんが、脳腫瘍の中でも治療が難しい「膠芽腫」(こうがしゅ)と診断されたのは、2022年8月のこと。手術で腫瘍を摘出しましたが、今年5月に再発し、その3か月後に再々発。放射線治療や抗がん剤を使用しながら、懸命に療養しています。
息子のりつき君(2歳)がまだ1歳だった時に脳腫瘍が分かったため、闘病で十分に遊んであげられなかったことを、早紀さんは悔いていました。夫の雅史さんに対しても、心配をかけて心苦しい気持ちと、感謝を抱いていました。そうした思いから、「体が動くうちに家族で思い出を作りたい」とCaNoWに応募してくださったのです。
早紀さんから寄せられた願いには「私たち夫婦は海が好きで、結婚式は沖縄であげました。思い出の沖縄で自然と触れ合い、アクティビティを楽しみたいです」と書かれていました。そこでCaNoWは2泊3日の沖縄ツアーを計画しました。

10月下旬、羽田空港で待ち合わせをしたCaNoWスタッフと安室さんご家族。タクシー停車場で待っていたスタッフの前に早紀さんと雅史さん、りつき君が現れました。早紀さんは、脳腫瘍の症状で左手足の麻痺が進行し、歩行が不安定な状態です。腫瘍の影響で両眼ともに視野が欠け、記憶障害も生じていました。出発の数日前に、症状がより重くなったため、雅史さんのお母さんも空港まで付き添い、移動をサポートしてくれました。
雅史さんが顔を近づけて、ゆっくりと「大丈夫?」と尋ねると、早紀さんは精一杯にうなずきました。CaNoWの看護師の介助でタクシーから車いすに移乗し、飛行機に乗り込みました。
バリアフリーのはずが、車いすでは険しい道のり
飛行機が那覇空港につくと、タクシーで沖縄本島の東側にある「果報バンタ」に向かいました。バンタとは沖縄の方言で「崖」「岬」のこと。よい知らせが来る岬として人気のある、絶景スポットです。バリアフリーだったものの傾斜のきつい坂道で、車いすでの移動は容易ではありませんでした。でも、タクシーの運転手さんが福祉関係の経験のある方で、力を貸してくださいました。CaNoWのスタッフ、看護師、そして運転手さんの3人がかりで車いすを押して岬に到着。そこには透き通る海と、緑の生い茂る崖、そして穏やかな波の音が待っていました。

どうか果報が訪れますように…それぞれが願いをかけたひとときでした。その後はホテルに入り、長時間移動の疲れをいやしました。
思い出の結婚式場で、思いがけないサプライズ!
ツアー2日目からは、早紀さんの実母、斉藤加代子さんも合流しました。午前中は「美ら海水族館」へ。大きな水槽で優雅に泳ぐジンベイザメは圧巻です。そして昼食をはさんで、タクシーである場所へと向かいました。そこは、お2人が結婚式をあげた「アイネス ヴィラノッツェ 沖縄」(名護市)。早紀さんがもう一度訪れたいと切望する場所でした。式場に到着し、見学を申し込むと快く受け入れてくださり、結婚式の時と同じスタッフさんが案内してくださることに。

全面ガラス張りでオーシャンフロントのチャペルは、まるで海と一体になったような神秘的な空間でした。夫婦としての始まりを誓ったあの日が、ありありと思い起こされます。ここで、雅史さんからのサプライズ! 琉球ガラスのペンダントと、思いを込めた手紙でした。ペンダントの色は、新婚旅行で訪れた宮古島にちなんで「ミヤコブルー」です。手紙には、「妻になってくれて、ありがとう。りつきを産んでくれてありがとう。これからも家族3人ずっと一緒にいよう」と綴られていました。


思いがけないプレゼントに少し驚いた表情で、雅史さんを見上げる早紀さん。家族との大切な時間をかみしめている様子でした。
実施が危ぶまれるも「やりたい」。早紀さんの強い思い
1時間ほどでアイネス ヴィラノッツェ沖縄をあとにし、次なる思い出作りの場へ。地元の人に愛されている「木綿原(もめんばる)ビーチ」(読谷村)で、カヌーを楽しむプランです。麻痺の影響で体が少し左側に傾くため、大事をとって実施を見送ることも検討しましたが、諦めきれない早紀さん。声を発することも困難だったにもかかわらず、右手でグッドポーズを作り、「やる、やる」と雅史さんに伝えていました。

その強い意思をどうにかして叶えられないか。カヌー催行会社のスタッフさんにCaNoWが相談すると、「パドルを持って沖に出ることは難しいものの、カヌーに乗った早紀さんの左側を雅史さんが立って支えれば、浅瀬に浮かぶことは問題ないのではないか。背中を支えるシートをカヌーに取り付けることもできる」と提案してくださいました。
そこで、看護師が丁寧に体調を確認したうえで、短時間、浅瀬でカヌーを楽しむことにしました。

小石や貝殻で歩きにくい砂浜ではインストラクター2人が早紀さんを抱えて移動し、いざカヌーへ。水深は数十センチですが、海に浮かぶ感覚、潮の匂いと風は本物です。祖母の斉藤さんとカヌーに乗ったりつき君にとっては初めての体験で、不思議そうに辺りを見まわしていました。早紀さん持ち前の行動力と、芯の強さによって、新たな思い出が作られました。しばらくすると夕日が沈みはじめ、一行はホテルへ戻って体を休めました。

楽しみなイベントが、闘病中の希望になる
ツアーの最終日、朝食を終えて落ち合った安室さんご家族に、CaNoWからインタビュー。早紀さんは発話が難しかったため、雅史さんが早紀さんの気持ちを汲み取って、お話ししてくださいました。お2人とも、一番楽しかったのはアイネス ヴィラノッツェ沖縄で、「チャペルに入る瞬間、とても感動した」と仰っていました。
また、ツアーに参加する前とあとでは、気持ちが変化したそうです。それは、「楽しいイベントがあると前向きになる」ということ。脳腫瘍と闘いながらの生活は、決して平たんではありません。でも、あと何日で沖縄に行く、海に触れ合えるという目標があることで、希望につながったそうです。お2人ともに「少し無理してでもやった方がいい」と実感したとのことでした。

また、雅史さんは早紀さんへの思いがより明確になったとも仰っていました。チャペルで手紙を読み、どれだけ早紀さんがかけがえのない存在か、どんなに感謝しているか。今まで伝えきれなかった思いも、しっかり言葉にできたそうです。
無事にツアーを終えた数日後、早紀さんからCaNoWにメッセージをいただきました。 「これからも旅行に行ったり、アクティビティをやりたいという気持ちが湧いてきています。自分で楽しみなイベントを作って、希望を持って前へ進んでいきたいと思っています」
重い病気があっても、楽しむことを諦めない。次はどこへ行こう、何をしようと明日を見つめることが、安室さん家族の結びつきをより深めてくれることでしょう。
