願いを叶えた方々

栗本修代様

VRで外の世界を楽しみたい!

VRで外の世界を楽しみたい!
栗本修代様(写真手前)

CaNoWムービー

お喜びの声をいただきました

願いを叶えるまで

奈良県に住む栗本修代(なおよ)さん(61)は、2016年末にALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されました。ALSとは全身の筋肉を司る神経が障害され、体を動かすことができなくなる難病です。進行すると、のどなど呼吸に必要な筋肉も動かなくなっていきます。
修代さんは長年、専業主婦として子育てや義両親の介護に励み、ようやく自分の時間を持てるようになった矢先、ALSであることがわかりました。最初は少しつまずきやすい、洗濯物が取り込みにくいといった症状でしたが、やがて発語が失われ、診断から5~6年目には寝たきり状態に至りました。外出は難しく、最近は自宅に閉じこもりがちだったそうです。

■ 24時間ベッドの上。できることはなんでもやりたい!

現在、修代さんは人工呼吸器を装着し、24時間体制のケアを受けながら在宅で療養しています。残されている身体機能は、顔の表情と頷き、そしてわずかな指先の動きです。普段の楽しみはテレビを見ることと、家族や医療・介護スタッフと会話をすること。会話には、少しのボタン操作で文字入力ができる意思伝達機器「伝の心」を使っています。

通常であれば、日々を過ごすことで精いっぱいになるかもしれません。人によっては新しいことへのチャレンジを考えられないかもしれません。しかし、修代さんは元来ポジティブな性格で、意思伝達機器を用いて作業療法士(OT)の遠藤和美さんに願いを伝え、CaNoWにこんなメールを送ってくださいました。

「私は、ALSという病気です。(中略)24時間同じベッド上で過ごしているので、体験できる可能性のあるものは、積極的にやってみたいのです。VRでジェットコースターに乗ってみたいと考えることがあります。外出しているような体験もしてみたいです」

同時に、夫の雅裕さんからは次のような応募文章が寄せられました。

妻は26才で結婚し、仕事をやめて専業主婦としての生活に明け暮れておりました。私はサラリーマンだったため、体の弱い義母の闘病生活は妻がほぼ一人で世話をしていました。義母が亡くなった1年後には義父が認知症を発症して自宅療養が始まり、妻1人での介護が引き続き始まりました。寝る時間もほとんどとれず、入院時には自転車で約30分かけて自宅と病院の往復をするなど本当に大変な状態でした。その義父は2014年に亡くなりました。家族で旅行に行くなど、自分の時間を使えるようになった矢先にALSを発症してしまいました。 車椅子での外出は2回程度実施しましたが、準備等が大変で、妻本人の負担が大きすぎます。ついては、VRで比較的負担が少なく、外出に近い体験をしたいと思いました。

夫婦ともに前を向き、今の状態で楽しめることへの意欲があふれていました。

■ 緊急時にはボタンを3回押して知らせる

CaNoWチームは、修代さん、雅裕さん、遠藤さんたち医療・介護スタッフとオンラインミーティングを行い、現在の体調や必要なケアについて伺いました。VRで体験したいことを改めて確認すると、修代さんは笑顔でアイコンタクトをとりながら、「深海や宇宙などに行ってみたい」とリクエスト。
また、今後の展望を伺うと、外出をするために車いすをオーダーメイドしたことを、遠藤さんから教えてもらいました。修代さんご本人はもちろん、ご家族や医療・介護スタッフも同じ目標に向かって、前進していることが伝わります。

体験するVRプログラムは、安全性を考慮して選ぶことにし、万が一、途中で身体に影響を感じた場合は意思伝達機器のボタンを3回押して知らせてもらうことを約束しました。

後日、CaNoWチームは修代さんの主治医にも相談し、主に3つのアドバイスをもらいました。
・ちょっとしたギャッチアップ(体を起こす動作)でも呼吸状態が変わってしまうため、注意してほしい
・首、背中の支えをしっかりして、呼吸状態の悪化を防ぐ
・VR用のゴーグルを装着すること自体は懸念なし

■ 「ベッドを2度だけ上げますね」入念な位置調整

VR機器はいくつかのメーカーから販売されていますが、今回、CaNoWチームは「Oculus quest2」(Facebook社[現・Meta社])を選びました。コードレスタイプで寝た状態でも装着しやすく、重さは約500グラムと比較的軽量なため、修代さんの首への負担がそれほどかからないためです。
また、遠藤さんは無理のないギャッチアップの角度を確認したり、VRゴーグルに見立てた重りを修代さんの頭部に装着してみたり、入念な準備をしました。

そして迎えた当日。修代さんのもとに、夫の雅裕さん、長男の忠宏さん、次男の勝久さん、孫の蘭ちゃん(1歳)と、いつもの医療・介護スタッフが集まり、和気あいあいとした雰囲気でプロジェクトが始まりました。
ポッポッポ……いつものように人工呼吸器の音が鳴る中、まずはスタッフ間で当日の注意事項を確認し合いました。遠藤さんは「ベッドを2度だけ上げますね」などと修代さんに声をかけながらVR鑑賞の準備を進めました。ヘルパーの小西克幸さんと訪問看護師は、ギャッチアップしたあとの背中の服のしわや、枕の位置などを丁寧に整えました。

修代さんにVRゴーグルを装着したあと、CaNoWチームが「はい」「いいえ」で答えられる質問をして、それに頷き返してもらうことで微妙な位置調整をしました。スタッフを含めてその場にいる全員が一緒に楽しめるように、VR映像を別のモニターに映し出す準備も整えました。

そして、この日VRで見るコンテンツのメニューを全員で確認し、いよいよスイッチオン!

■ Googleストリートビューで、懐かしい生家に降り立つ

「おおー、これすごいわ!」
長男の忠宏さんが歓声を上げました。その様子を見ながら、修代さんはにっこり。最初に視聴した映像はバーチャルダイビングで、目の前に海中の景色が広がります。

通常、VR機器はゴーグルの角度に合わせて映像が映し出され、ベッドにあおむけの状態では上方向しか見ることができません。しかし、この映像は頭上をウミガメや魚がゆったりと泳ぎ、十分に楽しむことができました。CaNoWチームが、修代さんの身体状態に合うものを探したのです。

他に視聴した映像は、VRプラネタリウム。ベッド上で世界中の星空を眺めながら、星座の解説を聞きました。修代さんの目はキラキラと輝き、いつも以上に豊かな表情に。
時おり、痰の吸引や脚のマッサージ、目薬などいつものケアをしながら、和やかにプロジェクトは進みました。

VR機器でGoogleストリートビューを見られるアプリを起動し、修代さんの生まれ故郷にアクセスしてみました。生家の前の画像を映し出されると、雅裕さんが「見覚えのある景色だね」と微笑みかけ、修代さんも嬉しそうに頷いていました。

CaNoWスタッフが「ほかに見たい景色はありますか?」と尋ねると、修代さんは意思伝達機器で「ましゅうこ」とリクエスト。ストリートビューで北海道の摩周湖が一望できる展望台へアクセスしました。ギャッジアップの角度がもう少し高ければ全体を見渡せましたが、「行きたいところへ行けた」という達成感はあったようです。
修代さんは、意思伝達機器を使って「ほんとうにそこにいるみたいでたのしい」と感想を打ってくださいました。
意思伝達装置で修代さんが書かれたVR体験の感想

■ VR体験は「夫婦のきずな」を再確認させてくれた

実は、メニューに書かれたVRコンテンツに加え、CaNoWスタッフはもう1つの映像を用意していました。広大なバラ園を散策できるVR映像です。夫婦で手をつなぎながらバラを眺め、バーチャル世界で久しぶりのデートが実現しました。
そして、最後にサプライズ! 雅裕さんから大きなバラの花束とお手紙をプレゼントしました。手紙は、「大好きな修代へ」から始まり、献身的に家族の世話をしてきた修代さんへの感謝の気持ち、そしてこれからも一緒に頑張っていくことが記されていました。

大好きな修代へ

1987年4月26日に結婚して34年になるね。
それから今までいろんな事があったけど、つらい思い出の方が多かったね。

僕の両親の日常の世話や看病など、ほとんど一人で面倒見てくれたね。その他にも甥・姪の世話どころかその子供まで愚痴もこぼさず献身的に世話してくれて、有り難う。
今の栗本家が存続するのは、修代のお陰だと思っています。
本当に有り難う。

そして両親を見送ってくれてようやく修代自身の人生を送ることが出来ると思ったのもつかの間、筋萎縮性側索硬化症という難病に罹りこの世には神も仏もないのかと思った。でも、良い治療薬もどんどん発表されてるしきっと直ると信じてます。

これからも、病気に負けずに二人で頑張ろうね。そして修代がこれまで頑張ってくれたことに対し、感謝の気持ちを僕の行動でもって示してゆきます。

これからもよろしく

涙で声を詰まらせながら手紙を読む雅裕さん。修代さんも泣きそうな表情で目を細め、意思伝達機器で「ありがとう」と応えました。VR体験は、久しぶりに外出の楽しさを味わっただけでなく、夫婦の愛情やきずなを再認識することにもつながったようです。

これからも、修代さんが修代さんらしい生活を営まれること。家族や支援者のサポートを受けながらも、思ったように生きられることをCaNoWスタッフは願っています。

当日同伴スタッフ:石野宏実、山川華奈(M3)

企画プランニング:山川華奈(M3)

文章作成:越膳綾子

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