■ ハイハイやお座りが、徐々にできなくなっていき…
谷岡さんが紗帆さんの異変に気づいたのは、生後10カ月を過ぎた頃でした。「それまでできていたハイハイやお座り、手でものを持つことなどが、徐々にできなくなっていきました。お座りしていても、コテッと転んでしまって」(谷岡さん)

代表的な症状は、言葉が話せない、手をもんだり、手で胸をたたいたりなどの動作を繰り返す、背骨が湾曲する、てんかん、無意識に息を止めてしまうなどです。現時点で、確立された治療法はありません。
紗帆さんは現在も言葉を発することはなく、食事はペースト状のものを食べています。自力で座ることができないので、支えがなければほぼ寝たきりです。生活のあらゆる場面で介助が必要で、24時間目が離せません。

■ 車椅子の高さに合わせて背景のセットを調整
写真撮影の日、谷岡さんご家族3人と、レット症候群支援機構の会員のお子さん3人とそのご家族が集まりました。撮影場所にはCaNoWが依頼した、ヘアメイクアーティスト、装飾担当、カメラマンの3人のプロフェッショナルがスタンバイしています。レット症候群の患者さんは、座っているのも疲れるため、なるべく車椅子のリクライニングを倒した状態にしてもらい、体への負担を考慮しながら撮影を進めていきました。
まずはヘアメイクアーティストの佐々木美和さんの手で、かわいらしくヘアスタイルをアレンジ。プロの技術でとびきりおしゃれに仕上げます。髪を編み込んだり、毛先をカールさせたり。普段とは違う自分の髪形を見て、ニッコリ笑顔も見られました。

「レット症候群の子は着替えにサポートが必要なため、普段の服装は脱ぎ着しやすいものが中心です。だからこそ、紗帆と同年代である10歳前後の女の子が喜ぶようなおしゃれをしてもらってはどうかと思いました」(谷岡さん)


背景装飾を担当した福村裕子さんは、工夫した点についてこう説明します。 「車椅子の高さに合わせて、装飾の位置を上下に移動したり、取り外したりできるようにしました。寝転んだ体勢でも撮影に対応できるようにしています」
■ 会場が一体となって盛り上げ、笑顔を引き出す
カメラマンの安田一貴さんは、普段から病気や障害のあるお子さんを撮影しています。「撮影ではいつも、障害や病気の特性について基本的な知識を持つことと、そのうえでお子さんたちの様子を見ながら、『あせらなくて大丈夫』という雰囲気を出すことを心がけています。今日の撮影が、心に残る楽しい体験になってくれたらいいですね」(安田さん)
セットのお花に包まれるように並んだ4人のプリンセスたち。「みんな、撮るよ」「上手ー!」と、安田さんが声をかけて盛り上げます。みんな表情がほぐれて、自然な笑顔になりました。

紗帆さんたちの愛らしさが収められた写真には、見る人の心を動かす力が宿っていることでしょう。谷岡さんは「写真を見た人に、まだまだ認知度が低いレット症候群に少しでも興味を持ってもらい、ホームページで調べたり、誰かにこの病気について話したりなどアクションしてもらえたら」と期待を語りました。
■ 根本治療に向けた国内外での動きに期待
谷岡さんは、これまでレット症候群支援機構を通じて、疾患に関する情報発信や、患者家族の情報交換、コミュニケーションアプリ「レッコミ」の開発などを行ってきました。さらには治療法の確立を目指して広く寄付を募り、研究者向けの助成をしています。これまでに助成した金額は1600万円にのぼります。