「視神経脊髄炎スペクトラム障害」(NMOSD)は、視神経や脊髄に炎症が起こる神経難病です。“スペクトラム”と病名にあるように症状は多様で、痛みやしびれで体を動かしづらくなる方もいれば、視力障害や排尿障害で悩まされる方もいます。
患者さんの約9割が女性であることも、この病気の特徴です。体を動かすことが大変なうえ、ステロイド治療の影響で「ムーンフェイス」(顔のむくみ)や体重増加などが生じることがあり、楽しんでいたオシャレを諦めざるを得ない方も少なくありません。
そこでCaNoWでは、「患者さんたちに病気でオシャレを諦めてほしくない」と考え、なりたい姿に変身する企画を用意。3名の患者さんがメイクアップやスタイリングでドレスアップして、女性誌などで活躍中のフォトグラファー永峰拓也さんによる写真撮影を体験していただきました。
■ 「明るく元気に」をテーマにビタミンカラーで変身

変身企画の当日、まず会場入りしたのは鈴木加織さん。「変わった自分を見てみたい」と思って応募されました。NMOSDの症状で手足のしびれがあるので、普段のメイクはササッと整える程度、服装も機能重視でラクに着られるものが多いという加織さん。ヘアメイク中は、気になっているシミをカバーするメイク法などを教えてもらいながら、鏡の中で変わっていく自分を見つめていました。

今回のイメージテーマは「オレンジ系で明るく元気に」。メイクもファッションもビタミンカラーで統一して、いざ撮影へ。永峰さんのオーダーに合わせてさまざまにモデルポーズをとり、終わったあとは「なんか自分じゃないみたいです」と感想を伝えてくれました。
■ 諦めていたオシャレと推し活を再び楽しむ気持ちに

続いてヘアメイク入りしたのは鈴木智美さんです。病気になる前はネイルやエクステンションを楽しんだり、アートメイクをしたり、ファッションが大好きだったといいます。NMOSDになってからは左目の視力を失い、治療の影響で容貌や体型も変わってしまったこと。だんだん気持ちが後ろ向きになり、ふさぎこみがちな日々が続いていたと言います。「でも、このままじゃいけない。病気でもキレイな姿になれることを実感したい」と今回応募を決めました。

20年前から韓国ドラマ『冬のソナタ』で主題歌を歌っていた歌手のRyu(りゅう)さんの追っかけをしていたという智美さん。ヘアメイクの間、スタッフと“推し活話”に花を咲かせました。永峰さんが撮影した写真を見て「こんなに変われるものなんですね」としみじみ。今回の希望は「キリッとかっこいい系」で、イメージ通りの変身に「オシャレも推し活もまたがんばりたい」と笑顔を見せました。
■ ネイルとウィッグをつけて変身!「テンションが上がりました」

最後に会場に入ってきた神田知子さんの希望は、「振袖を着てみたい」というものでした。でもNMOSDの後遺症で杖が手放せず、事前の打ち合わせでは「やっぱり着物は難しいですよね?」と。そんな神田さんの願いを何とか叶えたくて、着付けが簡単な浴衣を楽しんでもらうことにしました。

神田さんの変身テーマは「キュートなアイドル」。メイクはピンク系で整え、ショートの髪にロングヘアのウィッグをつけて結い髪に。涼やかな浴衣の柄に合わせて、ジェルネイルと髪飾りをつけると「かわいい~! テンション上がりますね!」と嬉しそうな声。写真撮影の間も、笑顔でアイドルポーズを決めてくれました。
「貼って剥せるタイプのネイルとかウィッグとか、簡単にオシャレに変身できるグッズがこんなにあるなんて知りませんでした。ちょっと外に出てみようかなという気持ちにさせてくれそう」と神田さん。とくに気に入ったのがウィッグとのこと。「帰ったらすぐ買います」。
■ 【座談会】治療や再発、NMOSDの悩みを医師と患者がシェア
撮影を終えたあとは、NMOSDの専門家である眞﨑勝久先生(九州大学病院脳神経内科)、鵜沢顕之先生(千葉大学医学部附属病院脳神経内科)をお迎えし、患者さんと医師の座談会が行われました。

───NMOSDにはどのような症状があるのか、改めて教えてください。
眞﨑先生 視力低下や視野障害、眼の奥の痛み、両下肢の運動麻痺などの頻度が多く、それ以外にも痛み、腰から下のしびれ、排泄障害、それから痒みも特徴的です1),2)。さらに特徴的な所見がしゃっくりです3)。しゃっくり自体も大変きつい症状なのですが、適切に治療されないと、しゃべれなくなる、飲み込みが悪くなるなど、延髄の病変から病状が広がって、後遺症につながっていきかねません。
1) Lee S et al, Mult Scler 2024 Oct;30(11-12):1423-1435.
2) Z He et al, Mult Scler Relat Disord. 2017;13:1–3.
3) C Zhou et al, Rev Neurol. 2021 Apr;177(4):400-406.
───患者さんの日常生活にもさまざまな影響を与えそうですね。
鵜沢先生 30~40代の女性に多い疾患ですので、仕事を含む社会生活、妊娠・出産といったライフイベントに影響しやすいですし、病気による症状で日常生活にも支障が出てきます。また、ステロイド治療によって、ムーンフェイスや体幹に脂肪がつきやすい中心性肥満など、美容に関わる影響も起こりやすいため、精神面での影響も大きいと思います。
■ しゃっくり、嘔吐、麻痺。再発で起こるさまざまな症状
───再発も起こりやすいと聞きました。
眞﨑先生 私の患者さんでも30回、40回と再発している方がいらっしゃいました。1回再発すると連続して起こりやすいのもNMOSDの特徴4)です。
4)Akaishi T, Neurol Neuroimmunol Neuroinflamm. 2019; 7(1):e640
───皆さんも再発を経験されていらっしゃると思いますが、再発時はいろいろな思いをもたれたのではないでしょうか。
鈴木(智)さん 発症して10年ですが、再発は30回ぐらい経験しました。再発で入院してステロイド治療をしている最中に再発したこともあって、それがまたショックで……。体重も30kgぐらい増えたため、洋服はデザインより大きさで選ぶしかなく、諦めの気持ちでふさぎこんだ時期がありました。
鈴木(加)さん 私も30回ぐらい経験しています。脳から腰にかけて年に何回も再発して、一番ひどいときは完全麻痺で動けなくなったこともあります。仕事をしていたので、たびたび休まざるを得なくなり、仕事で責任を果たせない申し訳なさを感じましたし、体が動かなくなりましたから、やっぱり落ち込みました。
神田さん この病気について知らない人も多く、再発を繰り返してステロイド治療をしているとき、「顔が大きくなったね」「太ったね」と周りから言われて泣いたこともあります。
■ 医師には言いにくいことを分かち合う方法
───そうした気持ちの面や美容に関する悩みなど、医師に相談しづらいこと、言いづらいこともあるかと思います。皆さんの場合はいかがでしょうか?
鈴木(加)さん 以前、ネットで調べた情報を口にすると先生に嫌がられたり、「それはネットの見過ぎだよ」と言われたりしたのですが、これってやっぱり聞かないほうがいいのでしょうか?
鵜沢先生 ネットの情報には正しいものもありますし、違うものもあります。患者さんがその判断をすることはなかなか難しいので、ご自身で調べた情報に関しては医師に確認していただくほうがよいと思います。
鈴木(智)さん 私は薬の点滴をする際、毎回のように針を1回で刺してもらえず、何回もやり直しになってつらいです。大学病院は仕方がないと思い、言わずに我慢してしまうのですが……。
眞﨑先生 毎回それが繰り返されるのは負担も大きいですから、我慢せず、主治医にお話ししてみてください。手技の上手な看護師もいますので、事前に伝えれば配慮してもらえると思いますよ。
神田さん 私の場合、排尿がしにくくて便秘もひどいのですが、排泄に関することはやはり口にしづらいです。
鵜沢先生 医師に言いにくいことは、点滴や注射の時などに看護師に相談してみるのも方法です。伝えたいことを事前にメモにして、診察の時に医師に渡すのもよいと思います。
───最後に、医師として患者さんから伝えてほしいことはありますか?
鵜沢先生 患者さんご自身が感じている変化は、ぜひ伝えてほしいと思います。医師の側が見過ごしてしまっていることもあるかもしれませんので、基本的には何でも遠慮なく伝えていただいて構いません。小さなことでも伝えていただけるほうがわれわれとしてもありがたいです。