埼玉県在住の倉本知眞さん(写真左から3人目)は、1歳で発症した脳腫瘍の治療の影響による脳機能障害や難聴を乗り越えてきました。大変な状況にあってもがんばり続けてきたもの、それがピアノです。倉本さんの「音楽の力で感動を与えたい」という願いを受け取ったCaNoWは、特定非営利活動法人AYAと合同で「 AYAインクルーシブ 音楽フェスティバル in 横浜」を開催。倉本さんに出演してもらいました。AYAの代表を務める医師の中川悠樹先生(写真右)にインタビューし、コンサート実現までの道のりや、AYAの活動について伺いました。(インタビュー前編)
■ 一番苦労したのは理想のホール探し
───コンサートを開催したいきさつを教えてください。
これまで、AYAではスポーツ観戦や映画鑑賞など様々なイベントを主催してきましたが、音楽イベントは個人的にずっと実現したいと思っていたのです。AYAの会員や関係者からも、「やってほしい」との要望を受けていました。じつは2023年に一度、金沢で音楽イベントを開催したことがあるのですが、今回のような本格的な音楽ホールで行ったのは初めてでした。
───開催にあたり、苦労したことはありますか?
ホールを決めるまでが大変でした。映画上映会の場合は、座席の最前列とスクリーンの間が離れているので、車いすやバギー、ストレッチャーの子もそこで鑑賞できます。ところが音楽ホールは、5か所ほど見学したものの、どこも座席がステージギリギリまで設置されていました。
「どうしたものか」と悩んでいたところ、ようやく見つけたのが、今回の会場となった「はまぎんホールヴィアマーレ」です。座席の一部が床下に収納できる構造で、ストレッチャーも入れるスペースが作れるとわかりました。「これならできる」と確信し、開催にこぎつけました。
■ 演奏する倉本さんの姿を見て「やってよかった」
───コンサートの感想を教えてください。
倉本さん、上手でしたよね。演奏に入り込んでいる姿や、それを見ているお母さんの表情もよくて、「やってよかったな」と思いました。倉本さんの祖父母も観に来てくれて、孫の活躍を喜んでくれたそうです。
私も最後に、サックスで演奏に加わりました。この日のために、勤務しているクリニックの駐車場で、2か月間ほど練習して臨みました。人前で披露するのは2回目ですが、ものすごく緊張しました(笑)。
───皆さん、素晴らしい演奏と歌でしたね。
出演してくれた「AYAドリームアンサンブル」は、この日のために特別に結成してもらったんです。
最初に依頼したのが、個人的に仲良くしていたピアニスト(宮野志織さん)。彼女から、知り合いのボーカル(根岸千尋さん)とチェリスト(飯尾久香さん)に声をかけ、メンバーを集めてもらいました。「子ども向けのコンサートではMCが大事だから」と宮野さんが紹介してくれたのが、パーカッショニストで司会も担当した二見智祥さんです。一度お話させてもらい、人柄も素晴らしかったので、お願いすることに決めました。皆さんプロとして実績のある人ばかり。信頼して、曲目もすべてお任せしました。
■ 病気や障がいのある子どもに、世界を広げる機会を提供
───改めて、AYAの活動内容について教えてください。
AYAでは、医療職スタッフの同行など医療的なサポート体制を整えることで、病気や障がいのある子どもたちが社会活動に参加できるよう支援しています。企業や団体の協力を得て、貸し切りでの映画上映会、スポーツの観戦や選手との交流などのイベントを企画・実施してきました。AYAのイベントにこれまで参加してくれた人の数は、およそ4000人にのぼります。
───AYAの活動に関わっているのは、どのような人たちですか?
運営を支えるスタッフは、正会員が約25人。それから、プロボノ(仕事で得た技術や経験を生かした、社会貢献のボランティア活動)として手伝ってくれる人が20~25人ほどいます。
さらにイベントごとに地域のボランティアを募っています。今回のコンサートでは、横浜にある専門学校の学生たちが力を貸してくれました。
■ 年4回、娯楽を体験できる機会を作りたい
───AYAの今後の展望をお聞かせください。
2025年度内には、すべての都道府県で映画上映会を実施します。2027年には、「誰でも映画館で映画を観られる日」と銘打って、これを全都道府県で同時開催できたらと考えています。近い将来には、スポーツの分野でも同様の取り組みをしたいですね。2030年までには、四半期に1回ぐらいの頻度で、このような全国同時開催のイベントデーを作るのが目標です。音楽イベントは、今後も続けていきたいですね。
───実現すれば、世の中にインパクトを与えそうです。
年に4回こうした日があれば、病気や障がいがある子どもも、娯楽をもっと身近に経験できるでしょう。重要なのは、病気や障がいのある子どもの社会参加が進めば、受け入れる社会が彼らの存在を認識できる点です。普段、重度障害児や医療的ケア児を街で見かける機会は少ないと思います。彼らが社会に出るにはどんなサポートが必要で、何が壁になっているのかが知られれば、「うちもユニバーサルトイレに改装しよう」「車いす席が必要だよね」と発想できるようになり、理解と支援が進みます。
逆に言えば、状況が万全でないからと家に閉じこもっていては、世の中は変わりません。そこでご家族には、「AYAが場を準備するので、思いきって外に出て行きませんか?」と背中を押しています。病気や障がいのある子どもとご家族、受け入れる側、互いの相乗効果で社会は変わっていける。そう期待しながら、今後もAYAの活動を続けていきます。