がん闘病20年…女性准教授、認知症の母と「思い出の地」へ

この記事は、2019年11月13日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 5 がん闘病20年…女性准教授、認知症の母と「思い出の地」へ」のタイトルで掲載されたものです。



人生100年時代、2025年には全人口の約18%にあたる2179万人が後期高齢者に。さらに医療の発達により、さまざまな疾患を持ちながらも、その病と共生する人々が年々増加しています。そんななか、「病に負けない、人生を輝かせる」という考え方のもと、患者さんの願いを実現し、生きるモチベーションを高めようという支援プロジェクト「CaNoW(カナウ)」がこの秋スタート。ここでは、CaNoWを通じて『認知症の母と、思い出の地を巡りたい』という女性の願いに密着しました。

がん闘病20年、願いは「認知症の母と二人旅」

Kさんが左乳がんを発症したのは20年前のこと。その後約10年を経て右乳がんを発症。さらに放射線治療から二次発がんした左腕の肉腫を切除する手術をこの4月に行うなど、長年にわたってがん闘病を続けています。

そんなKさんの願いは、認知症のお母様との二人旅。お母様が幼少期を過ごし、その記憶を今も留めている東京・神田と中野区鷺宮を訪ねることでした。しかし、手術後間もないKさんは左手で荷物を持つことを禁じられ、体調も万全ではありません。そこで、今回「CaNoW(カナウ)」を通じて看護師によるサポートを受けながらの挑戦を決めたのです。

思い出の地を巡ることで、母の昔の記憶を呼び覚ましたい

CaNoW_思い出の地を巡ることで、母の昔の記憶を呼び覚ましたい

───今回「CaNoW」のプロジェクトに応募しようと思ったきっかけは?

Qlifeが発行する「がんサポート」というメーリングリストを購読していて、そこでこのサービスを知ったのがきっかけです。私は1999年に左乳がん、2011年に右乳がんを発症し、手術と放射線治療を続けてきました。さらに今年4月これまでの放射線治療から二次発がんした左腕の肉腫を切除する手術を受けました。このように長期間がん闘病を続ける中、できるだけ役立つ情報を収集しようと、私はいくつかのがん関連サイトのメーリングリスト会員になっていて、その中に「がんサポート」があったのです。

───今回、Kさんが希望された「かなえたい夢」を改めて教えてください。

母は認知症のため最近の起きたことはすぐに忘れてしまいますが、古い記憶は残っていて、以前住んでいた場所の地名などを正確にそらんじることもできます。そこで母が学童疎開する前に通っていた東京都中野区の鷺宮小学校、さらに小さい頃に住んでいた神田を一緒に訪ねてみたいと考えました。
CaNoW_母が学童疎開する前に通っていた東京都中野区の鷺宮小学校

───ご自身のことではなく、お母さんの思い出の地を巡る旅を希望された理由は?

母が幼少期を過ごした土地を巡って、見覚えのある風景などに出会えば、当時の記憶を呼び覚ますことができるのでは、と思ったからです。そうやって蘇った記憶について母と会話ができれば、私も楽しいですし、本人の脳が活性化する可能性もあるのではないでしょうか。こうしたことは以前からやってみたかったのですが、二人だけで遠出するのは大変そうに思えて、なかなか実現できずにいたのです。

母のサポートをお願いできる看護師さんの同行が心強かった

CaNoW_母のサポートをお願いできる看護師さんの同行が心強かった

───現在のKさんのがんの闘病状況はいかがでしょうか?

今は、乳がんは治療が終わって経過観察中で、今年4月に手術した左腕の方も同じく経過観察中です。主治医から左手で荷物を持つことは禁止され、体調も万全ではないため、旅行中の母のサポートを看護師さんにお願いできたらと考えました。また、私の左肩から背中にかけて、術後の瘢痕予防用テープを貼っているのですが、これが旅行中にはがれてしまったときのケアや、軟膏の塗布も手伝ってもらえたらと思ったのです。

───お母様の健康状態はいかがですか。

母は70代後半まで奈良から大阪まで通って仕事をしていたのですが、80歳頃から繰り返し同じことを話したり、一人で外出して道に迷ったりということがありました。そこで、専門医を受診したところ、認知症と診断されたのです。これをきっかけに介護認定を受け、私が仕事に出かける平日の日中は、ケアマネジャーさんにデイケアや訪問介護サービスなどをセットしてもらい、母の日常をサポートするようにしたのです。現在母は86歳で耳が遠くなっているほか、高血圧、慢性腎不全などの持病もありますが、健康状態はまあまあ良好だと思っています。

母ゆかりの土地、神田と中野を巡る2日間

CaNoW_母ゆかりの土地、神田と中野を巡る2日間

───1泊2日の旅行日程とお聞きしまたが、1日目はどんな流れだったのですか?

看護師さんに家まで迎えに来てもらい、最寄駅へ。途中で近鉄特急に乗り換え、個室サロン席に座ってゆったりと京都駅へ向かい、新幹線に乗り換えました。看護師さんは「電車内では感染予防のために着用してください」と母にマスクを差し出されましたが、そうしたところまで気が回るのはさすが医療従事者だなと感心しました。また、私がトイレに行って離席する時も看護師さんに付いてもらえるので安心感が違いましたね。品川に到着後、母がかつて住んでいた中野区鷺宮を目指しました。

───お母様が住んでいた住居は見つかりましたか?

母が住んでいたという鷺宮の家は鷺宮3丁目にあるということしか情報がなく、母の話や写真を糸口に探しましたが、結局見つけられませんでした。ただ、数年後に廃校になるという話もある鷺宮小学校を訪問できました。ちょうど日曜日で校庭内に入れてもらえたので、古いウサギ小屋を見たり、ブランコに乗ったりして母にかつての母校の雰囲気を味わってもらいました。続いて、戦時中の暮らしに関する展示があるという中野区立歴史民族博物館に移動。施設内の展示物を見ていくと「鷺宮小学校70名、福島県浅川町の染屋旅館に疎開」と記された学童疎開関連の資料も見つかり、まさしく母の言っていた通りだということが証明されました。 その後は、神田のホテルへ。予約してもらった客室はバリアフリー仕様だったので浴室・トイレなどに手すりが設置されていて快適だったうえ、母は看護師さんに介助してもらいながら久々に一人用の浴槽で入浴できました。私一人ではとても母をお風呂に入れることはできないので大変ありがたかったですね。

───2日目に散策した神田界隈はいかがでしょうか

じつは小学生のころ、母と一緒にこの辺りを訪れた経験があります。ただ40年以上も経つので現地の様子も様変わりしたのかあまり覚えていないですね。母が言うには神田時代の住居はお玉ヶ池稲荷神社の隣で、千葉道場の裏だったそうなので、その痕跡を探しました。そうするとビルに挟まれた路地に「繁栄お玉ヶ池稲荷神社」の鳥居と祠が残っていて、その近くには千葉道場跡の石碑もあったので、ここに住居があったこともわかりました。また、この辺は古い店が残っていて「この店は行ったことがある」と言っていましたし、神田松枝町と書かれた古い倉庫も発見したので、自分の生まれ育った場所に戻ってきたことが母にもわかったようでした。

それから、母がお祭りを見たことがあるという神田明神へ。そこでお参りをしたり、甘酒を飲んだりしながら、ゆったり過ごした後、裏参道の急な階段を降りたところにある和食店で食事を取り、旅行の全日程が終了。看護師さんには自宅まで送っていただき、最後まで安心して旅を終えることができました。

思いを新たに…何事にも挑戦!

───今回「CaNoW」のサービスを利用してよかったことは何ですか?

事前に、列車や宿泊先の予約・購入をはじめ2日間の旅行プランを詳細に立ててもらったことです。普段は大学の仕事で忙しく、東京の土地勘がない私ひとりでは、うまく予定を組めなかったと思います。また、母は高齢なので看護師さんに同行してもらえたことは安心感がありましたし、私の術後のケアなどを手伝っていただくときも信頼しておまかせできました。その他、両日とも雨が降ったり止んだりという悪天候でしたが、何も言わないのに傘をさしかけてくれたり、母のために合羽を用意して着せてもらったりなど細やかな気遣いをしてもらえたこともうれしかったですね。
CaNoW_思いを新たに…何事にも挑戦!

───今回の旅行を経験した後、ご自身のがん闘病やお母様の介護生活をサポートするうえでどんなことを考えるようになりましたか?

本人は、東京で思い出の地を巡ったことをすっかり忘れているようです(笑)。ただ、現地で撮ったビデオや写真を見せると「行ったような気がするな」と楽しそうに語ってくれました。今回の旅行で自信がついたこともあり、今後は福島や和歌山など他の思い出の地も巡ってみたいと考えています。そうすれば、母の記憶をさらに呼び覚ますことができ、脳も活性化するかもしれません。

母に元気に過ごしてもらえるのが私にとっては何よりの喜びです。今回の旅行は、母の認知症や自分の病気など、どんなこともあきらめずにチャレンジしようと思うきっかけになったと思います。
CaNoW_どんなこともあきらめずにチャレンジしようと思うきっかけになった
人生100年時代、2025年には全人口の約18%にあたる2179万人が後期高齢者に。さらに医療の発達により、さまざまな疾患を持ちながらも、その病と共生する人々が年々増加しています。

「CaNoW」は、病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポート。これまでにも先行モニター企画として、「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「生まれ育った土地をもう一度観に行きたい 」などの願いを叶えてきました。

詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

メルマガを登録して
最新情報を受け取る

    メルマガ登録をされる場合、エムスリー株式会社の『個人情報取り扱いについて』の内容に同意したものとします。