忙しすぎる内科医、業務を軽減した意外な方法

この記事は、2019年10月19日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 3 忙しすぎる内科医、業務を軽減した意外な方法」のタイトルで掲載されたものです。

忙しすぎる内科医、業務を軽減した意外な方法

「病にまけない、人生を輝かせる」をコンセプトとし、患者さんの希望や願いを叶えるプロジェクト「CaNoW(カナウ)」発足記者発表会にゲストとして登壇。患者会の理事長やYouTuberとしても活躍する腫瘍内科医、押川勝太郎先生にお話を伺う本企画。これからのがん治療に求められる、患者さんの精神的なケアについて語っていただいた前回に引き続き、押川先生が実践する様々な取り組みについてお話を伺いました。

患者さんの精神的サポートに、患者会が有用

───前回、がん治療には、医学的な治療と同じくらいに精神的なサポートが重要であることを教えていただきました。では、押川先生はこの精神的なサポートのためにどのような取り組みをしていらっしゃるのでしょうか?

精神的なサポートには一人一人の患者さんと向き合ってしっかりとお話をすることが重要ですが、時間が限られている日常診療の中で、すべての患者さんと向き合うというのは容易なことではありません。

また、がん患者さんのなかには「先生は抗がん剤治療をしたことがないから私の気持ちはわからない」と、医師に対して最初から心を閉ざしている方もいます。そこで役立つのが「患者会」の存在です。

私は「NPO法人 宮崎がん共同勉強会」という患者会の代表をしており、がんを告知した患者さんにはこの会への参加をおすすめしています。実際に参加されるのは25%くらいですが、がん治療を乗り越えた経験をもつ先輩患者さんとの出会いで、少しでも不安や疑問を解消してほしいと考えています。
右:押川勝太郎先生
同時に、治療を終えた患者さんにとっても、患者会は非常に有用です。先ほど、がんが治ったにも関わらず、人生に希望を持てずに自殺を選んでしまった患者さんの例を紹介しましたが、がん治療を終えた後に、自身が活躍できる場、存在感を発揮できる場を持つことが、生きがいや希望につながります。

実際、患者会というのは人材宝庫です。「がん」という共通項で集まっていますが、その属性は様々。ボランティアではあるけれども、特技・背景・職業を活かしてもらいたいですね。たとえば、宮崎がん共同勉強会では、NPO法人化するにあたり、一流企業での就業経験をもつ食道がんの患者さんに定款を書いてもらいました。現在も事務長として活躍して下さっています。

患者会の存在が、患者さんの精神的な支えになり、治療にもプラスに作用すれば、結果的にぼくの負担は減るわけです。患者会で定期的な勉強会を実施すれば、個別に病気の説明をする時間の短縮にもつながりますからね。

YouTubeに説明動画を蓄積、データベース化で仕事を効率化

また、勉強会や講演会の内容をビデオに録り、YouTubeに公開しています。2014年に「がん治療の虚実」というチャンネルをスタートして、現在公開している動画は300本以上です。治療のことや副作用のことなど、データベースとしてまとめて、患者さんにご覧いただくことで不安を解消していただけるような仕組みです。
Youtube動画
YouTubeなどのSNSには、食事療法や代替療法など、いかさま医療があふれています。いかさま医療の存在が、標準治療の足を引っ張ることもしょっちゅうです。

何度もお伝えしていますが、人間は最後の最後まで「希望」が必要なんです。いかさま医療は、精神的に苦しんでいる患者さんに対して「束の間の希望」を提供するのが得意。しかし、状況が悪くなれば他の病院任せで投げ出してしまうのはご存知の通りです。

自身が正しい情報を発信することで、いかさま医療に傾倒してしまう患者さんを少しでも減らすことにつながればという思いもあります。

患者の希望、願いを叶える取り組みは、医師にも有用

───今回、押川先生にゲストとしてご参加いただきましたCaNoWは、「病にまけない、人生を輝かせる」をコンセプトとし、患者さんの希望や願いを叶えるプロジェクトです。

患者さんが闘病生活のなかで希望をもって前向きになれる仕組みですよね。旅行に行きたい…というような大きな希望もいいですが、まずは「ひとりでは主治医に言いたいことを言えない、聞きたいことも聞けないから外来についてきてほしい」というような、目の前の小さな願いを叶えていくことも非常に有用だと考えます。

また、CaNoWのような取り組みが広がり、患者さんが前向きに、希望をもって治療に向き合うことができるようになれば、治療の本来の意味も理解してもらいやすくなるので、医師の業務負担軽減にもつながります。そういう意味で患者さんにとっても、医師にとっても、有益なプロジェクトだと考えます。
※患者支援プロジェクトCaNoWとは

人生100年時代、2025年には全人口の約18%にあたる2179万人が後期高齢者に。さらに医療の発達により、さまざまな疾患を持ちながらも、その病と共生する人々が年々増加しています。

「CaNoW」は、病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポート。これまでにも先行モニター企画として、「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「生まれ育った土地をもう一度観に行きたい 」などの願いを叶えてきました。

詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。
 
押川先生
押川勝太郎先生
宮崎善仁会病院 消化器内科・腫瘍内科
1965年生まれ 宮崎県川南町出身 宮崎大学医学部卒
国立がんセンター東病院研修医を経て、2002年に宮崎大学第一内科で抗がん治療部門をスタート。
NPO法人 宮崎がん共同勉強会理事長 YouTube「がん治療の虚実」を運営するユーチューバー。
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