闘病経て成長、患者から「お大事に」声かけられる関係に

この記事は、2020年3月23日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 11 闘病経て成長、患者から「お大事に」声かけられる関係に」のタイトルで掲載されたものです。




中国地方のある病院で働く精神科医Yさん。3年前に進行乳癌と告知されるも、手術や放射線治療、化学療法を経て復職。現在、ホルモン療法を受けながら、多くの患者さんに寄り添っています。プライベートでは2児の母。仕事と家庭の両立に邁進するYさんですが、彼女には、ささやかな願いがありました。それは「自分の話を、とことん寄り添い聞いてもらうこと」。傾聴のプロである精神科医として多くの患者さんの悩みを受け止め続ける彼女の願いを叶えたのは「臨床宗教師」の存在でした。

傾聴のプロ、精神科医と臨床宗教師の対談が実現

私の願いは、私の話をとことん、話が尽きるほど、
寄り添って聞いてもらうことです

自分は精神科医です。
自分は精一杯患者さんに寄り添って、
社会復帰していただけるように尽くしているつもりでも、
自分はホームドクターを持たず、スーパーバイザーを持たず…
ひたすら耐え続けることに、少し疲れました。


これは、患者支援プロジェクト『CaNoW※』へ届いた一通のメール。差出人は中国地方で働く精神科医、Yさん。医師と母、二つの重責を担いながら、がんと闘病する中で生まれたささやかな願いは「自分の話を、とことん誰かに聞いてもらうこと」。

精神科医と言えば傾聴のプロ。そんなYさんの気持ちの全てを受け止める存在として力を貸してくださったのは、普賢寺副住職であり、徳山中央病院(山口県周南市)の緩和ケア病棟で臨床宗教師として活躍する桝野統胤(ますの とういん)さんです。

臨床宗教師とは、被災地においては被災者の、医療現場において患者さんの心のケアを活動の中心とする宗教者のこと。寄り添う対象には、医師や看護師などの医療スタッフも含まれており、離職率を下げる可能性もあると、期待を寄せられています。(臨床宗教師について、詳細は前編参照

そんな臨床宗教師 桝野さんと、精神科医 Yさんの対談に密着しました。

思うようにならない、心と体に感じる歯がゆさ

CaNoW_Yさん
Yさん

私が医師を志したのは、人の役に立ちたいという思いからです。病院実習で、患者さんとたくさん会話をする機会があり、それを機に患者さんが元気になってくれて…もともとお話をするのが好きで、それで人を癒すことができる。そこに手ごたえを感じて精神科を選びました。他の科と比べて、マニュアルがないのも魅力です。

現在も多くの患者さんに接していますが、たとえ病名が同じでも、皆さんそれぞれ抱えているものが違います。どんな人生を歩んできたか、どんな生き方をしてきたかに関係するのでしょう。多様な患者さんたちにどう向き合うか、自分の生き方が反映されるように思います。

患者さんが課題をクリアする瞬間というのは、何かしら理由があると考えられるかもしれませんが、実感としては「どうしてよくなったのだろう?」と理由が分からないことがよくあります。今日の天気のように、サッと晴れていく。何気ない瞬間に、治療が好転することがよくあるのです。

私が…病気になってから、患者の立場になってからの気持ちも…そうですね。闘病生活を乗り越え、職場復帰ができて、本当にうれしく思っていますし、いつもは医師として、母として気を張っているので、周りもそんな悩みを抱えているなんて考えもしないと思うのですが、ふと気を抜いた瞬間、天気のように気持ちが変わりやすくなってしまうことがあります。いつもは平気なことも、体調が悪くなると悲観的になってしまうのです。

桝野さん
桝野さん

そうですね、やはり生き物と言うのは自然なものですから、天候と一緒で、思うようにならないこともありますよね。

CaNoW_Yさん
Yさん

病気になる前に戻ることはないって、頭では分かっているのですが、戻りたい、どうやったら戻れるんだろうと考えてしまうこともあります。職場や家では落ち込んでいる姿を見せたくないので気を張っていますが、ときどきふと…後ろ向きになってしまう自分がいるのです。

canow
気丈なYさんが「患者の立場」に戻り、ふと涙を見せた瞬間。治療の苦しみ、体力的な不安や精神的なもやもやから仕事に全力投球できない歯がゆさ、精神科医としてこの局面を乗り越えなければと理解しながらも足踏みしてしまう自分へのもどかしさ…なかなか吐き出すことができなかった思いが堰を切ったようにあふれ出します。

Yさんの思いを、一言一句かみしめながら受け止める枡野さん。傾聴を続けるうちに、Yさんの言葉に再び強さがみなぎってきました。

辛い闘病も成長の糧に、患者さんから「お大事に」と声かけられ…

桝野さん
桝野さん

(患者さんの中にはご病気を乗り越えたYさんに)共感される方もいらっしゃるのでは?

CaNoW_Yさん
Yさん

そうですね、患者さんの中には、がんになったことがきっかけで受診される方もいらっしゃいます。これまでも、医師としてがん治療の概要や副作用について理解はしていましたが、現実は全く違っていました。サバイバーだからこそ共感できることもあるかもしれませんね。

ときどき、患者さんのほうから「先生お大事にね」と声をかけてもらうことがあるんですよ。医師としてこれじゃダメかしらと思うこともあるのですが、そういう心遣いはありがたいですし、救われますよね。

桝野さん
桝野さん

「お大事に」と患者さんが言える間柄というのは、お互いが近しくなった証拠ではないでしょうか。患者さんにとっても医師に頼られるのは嬉しいでしょうし、その空間がより良いものになるのでは。

CaNoW_Yさん
Yさん

そうですね、同じ目線に立てたことで、患者さんにとってもいい作用があるのかなと感じることもあります。

canow

精神科医が感じた、臨床宗教師の意義

心の内を吐き出しすっきりとした表情のYさん、二人の会話はいつしか、傾聴についてのディスカッションに。

CaNoW_Yさん
Yさん

患者さんとお話していても、話がとんとん拍子に進む人もいれば、気持ちや言葉がすれ違ってしまう人もいて。やはり相性があるんだろうな…と思うのです。患者さんも長年担当してしまうと、相手の反応のパターンが見えすぎて、治療がうまくいかなくなることもあるんじゃないかと感じることがあります。桝野さんはどう思われますか?

桝野さん
桝野さん

そうですね。相性というのはあるのかもしれません。自身は打ち解けられない患者さんも、別の臨床宗教師が出向くといろいろお話して下さることがあります。もちろんの逆も。

CaNoW_Yさん
Yさん

そう考えると、医師以外の相談相手として臨床宗教師がいるというのはやはり意義深いですよね。私の職場でも、入院患者さんには私だけでなく看護師や他の医療スタッフなどたくさんの人間が関わります。いろんな個性のスタッフがいることが、患者さんにとってもいいのかもしれません。

桝野さん
桝野さん

そうですね。患者さんの選択肢が広がればいいと思っています。

CaNoW_Yさん
Yさん

私自身も今日、桝野さんにとことん話を聞いてもらうという体験をさせていただきました。自分はこれまで、話を聞く・寄り添う側として生きてきて、自分の話をする方をあまりしてこなかったように思います。この3時間ですべてが解決することはもちろん無いのですが、自分の闘病生活や、悩みを語りつくせたことで、自分に対して否定的になってしまう時間が少なくなりそうだなと思えました。どうもありがとうございました。

支えてくれた家族へ、感謝の気持ちを伝えるビデオレター

最後に、Yさんのもうひとつの願い、娘さん、息子さん、そしてご両親へのビデオレターを撮影します。

CaNoW_Yさん
Yさん

娘の誕生日の約一週間後が手術でした。まだ小さな子どもたちに負担をかけてしまって申し訳ない気持ちがあります。それでも、とくに娘は必死で私を励ましてくれて…娘からもらった手紙や絵は私の宝物。家族にはぜひ、感謝の気持ちを伝えたいです。

canow
ビデオの前に立ったYさん。誕生を待ち望んでいたこと、生まれてきてくれた日の小さな唇と暖かな手、保育園や小学校での日々。何よりも、辛い時期を支えてくれたこと、感謝の気持ちをかみしめながら語りかけてくださいました。

「私がどうなっても、これが残るんだなぁ」お子さんを思い、優しい笑顔を浮かべるYさん。医師でも患者でもない、柔らかな慈愛に満ちた母の姿がそこにありました。

※患者支援プロジェクトCaNoWとは

人生100年時代、2025年には全人口の約18%にあたる2179万人が後期高齢者に。さらに医療の発達により、さまざまな疾患を持ちながらも、その病と共生する人々が年々増加しています。

「CaNoW」は、病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポート。これまでにも先行モニター企画として、「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「生まれ育った土地をもう一度観に行きたい 」などの願いを叶えてきました。

詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

掲載元媒体:m3.com

メルマガを登録して
最新情報を受け取る

    メルマガ登録をされる場合、エムスリー株式会社の『個人情報取り扱いについて』の内容に同意したものとします。