7年前、中学1年生で脳腫瘍を発症した髙木義文さん(20)。一時は寛解に至ったものの、二度の再発をへて現在は在宅療養をしています。二十歳を迎えた今年、成人式への参加を楽しみにしていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響で延期に。母親の伯美(のりみ)さんは「せめて家族写真を撮りたい」とCaNoW※に応募されました。義文さんの容体を考慮し、応募から約1か月半という異例のスピードで願いを実現。当日の様子をお伝えします。

中学1年で発症。治療で寛解するも、その後二度の再発
「はい、カメラ目線でお願いしまーす!」リビングに、プロのカメラマンによる掛け声とシャッター音が響きます。
中央のベッドに義文さん。その後ろには、ご両親と兄弟が見守るように並んでいます。この日は髙木さん一家にとって、初めての家族写真撮影です。義文さんは少し緊張したような、はにかんだような表情を浮かべながらも、穏やかに撮影は進みました。
伯美さんによると、もともと義文さんは3人兄弟の中でも一番活発で、野球が大好きな少年だったそうです。ところが、中学1年生の頃、体に異変が生じます。はじめは吐き気などの症状でクリニックを受診しましたが、地域の中核病院である大阪市立総合医療センターを紹介されました。診断は脳腫瘍、小脳の髄膜腫でした。
それでも義文さんは生きることに前向きで、厳しい治療にもめげませんでした。手術や化学療法、放射線治療を受け、一時は寛解に至りました。しかし――。
「高校1年生で再発が見つかりました。脊髄に播種していたそうです。化学療法と放射線療法を受けましたが、2年後に再再発しました」(伯美さん)
その後も投薬治療を続けていましたが、残念ながら症状は進行します。腫瘍が神経を圧迫するため、徐々に神経症状が進んで歩行ができなくなり、聴力も失われました。現在は首から下を自由に動かせない状態で、在宅療養をしています。
その一方で、世間では新型コロナの流行が続き、楽しみにしていた成人式は二度も延期されてしまいました。なんとか思い出を残す手だてはないか? と考えた伯美さんは、プロカメラマンによる家族写真の撮影を思い立ちます。
「義文の病状は日に日に進んでいきます。せめて自宅で写真を撮りたい」(伯美さん)
家族だけで願いを叶えられなかったワケ
ただ、自宅で家族写真を撮るにも、いくつかのハードルがあります。義文さんはベッドで過ごす時間が長いため、身体を起こすには全介助が必要で、撮影中に容体が悪化するリスクもゼロとは言えません。こうした状態を理解してくれるカメラマンが見つかるかも未知数です。さらに、新型コロナの感染対策にも注意を払わねばならず、ご家族だけでの実現は容易ではありません。
そこで伯美さんはCaNoWに応募されました。CaNoWでは医療資格を持つスタッフが応募者の願いをサポートするため、安心して家族写真を撮ることができると考えたのです。
CaNoWチームは、カメラマンに企画のコンセプトを丁寧に説明し、髙木さん一家の状況を理解してもらいました。また、事前に綿密なミーティングを行い、どのような写真を撮り、どんなサポートをするかなどを話し合いました。
応募があった時点で、義文さんは指でタブレット端末を触ってコミュニケーションが取れていましたが、徐々にそれも困難になっていきました。そのため、プロジェクトは通常よりスピーディーに進行し、1か月半後には家族写真の撮影を実現しました。
元野球少年は、タイガースのユニフォームで笑顔に
撮影当日、父の圭介さんがネクタイをキュッと結び、母の伯美さんが成人式のために用意した真新しいスーツを着させます。CaNoWスタッフはタブレット端末に文字を表示させながら言葉をかけて、着替えや移動などをサポートしました。義文さんも頷き返したり、目線でコミュニケーションを取ったりして、意思表示していました。「撮影前日は興奮していたのか、全然眠れていなかったんです。今日はしっかり目も開いていています」と伯美さん。普段は、薬の影響で傾眠傾向があるそうですが、この日は意識が清明な様子でした。


これには、義文さんも特に大きく頷き返しました。ご家族は「今年は優勝できたらねぇ」「スタートダッシュはいつもいいんだけど(笑)」などと、ほほを緩めます。家族全員でユニフォームに身を包み、笑顔の1枚。

撮影が近づけた「家族の距離感」
義文さんが疲弊しないように途中で休憩を挟み、無理のないペースで撮影は進みます。ご両親は、休憩中に幼かった頃のアルバムをめくりました。「家にいることがなかったんですよ。帰ってきたらすぐに野球したり、遊びにいったり」(伯美さん)
義文さんが1~2歳の頃、お風呂場で転倒して生えたばかりの前歯が折れてしまい、小学生頃まで笑うと前歯がなかった、というエピソードも思い起こされました。幼かった当時は大慌てしたことも、義文さんが二十歳となった今は懐かしい思い出です。

自宅前で写真を撮ったあと、近くのお寺を参拝。その後、かつて兄弟3人が駆け回っていた公園まで足を延ばしました。まるで大きな木のように、子ども達を包み込む父・圭介さん。その両腕で、いつも家族を守ってきたことでしょう。また、瑞々しい緑を背景に撮った兄弟の写真は、義文さんがやんちゃだった少年時代を彷彿とさせます。
伯美さんは撮影を振り返り、しみじみと語ります。
「みんなに愛されて、幸せだね」
撮影を通じて家族の距離感はぐっと近くなり、お互いを大切に思う気持ちが浮き彫りになりました。


野球少年が立派な青年になり、感慨深い
最後に願いを叶えられた義文さんに、主治医の藤崎弘之先生(大阪市立総合医療センター小児血液腫瘍科部長)からメッセージをいただきました。今回の企画を聞いて、髙木さん一家らしいなと思いました。義文君の病状が進行しても、いつもお互いに笑顔で支え合っているような、大変仲のいいご家族だからです。
私は、彼が中学1年生の頃から診療していますが、野球が好きだという話はよく聞いていました。中学3年生の頃だったでしょうか。夏の野球大会に出場できず、残念そうにしていたことをよく覚えています。実は私自身もかつて野球に打ち込んでいたので、その気持ちはよくわかりました。
義文君はまじめな性格で、高校生くらいの頃だったか、入院中も病棟の学習室で勉強をしていましたね。目標に向かってしっかり努力する姿が印象に残っています。病気の治療を選択するときも、一つひとつ自分で考え、決定していきました。あの野球好きだった少年が二十歳になり、ここまでしっかりした青年になったと思うと、感慨深いですね。
これからも彼の思いを大切にし、一緒に支えていきたいと思います。
※CaNoWとは、病気や障がいを理由にかなえられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクトで、企業やその従業員の寄付やサポートで患者さんの願いを叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。
このプロジェクトには、CaNoWの理念に共感したノバルティス ファーマ(株)の従業員が寄付しています。
このプロジェクトには、CaNoWの理念に共感したノバルティス ファーマ(株)の従業員が寄付しています。