「多発性嚢胞腎」を偶然見つけた時、医師のベストな対応は?

この記事は、 2022年12月13日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol.55 「多発性嚢胞腎」を偶然見つけた時、医師のベストな対応は?」のタイトルで掲載されたものです。

 

遺伝性疾患情報の専門メディア「QLife遺伝性疾患プラス」は、サイトオープン2周年を記念し、『CaNoW』(※)とともに患者さんの「願い」を叶える企画を実施しました。今回の主役、新潟県に住むひとみさん(44歳)は、高校1年生の時に遺伝性疾患「多発性嚢胞腎」と診断されました。以降、3度の手術でしばらく症状は落ち着いていましたが、ここ数年で病気が進行し、2021年秋から透析治療を開始しています。現在、息子の響くん(10歳)と暮らすひとみさんは「自分が動ける今のうちに、息子と遠くに出かけたい」との願いを叶えるため、CaNoWの企画に応募。思い出作りの旅に出掛けました。 今回は、ひとみさんの主治医である吉澤優太先生(小千谷総合病院付属十日町診療所 腎臓内科)による多発性嚢胞腎の解説をお願いしました。旅の様子とともにお届けします。

4000人に1人が発症。遺伝性腎疾患の中で最も患者数が多い

多発性嚢胞腎は、腎臓に分泌液の貯留した嚢胞ができる遺伝性疾患です。嚢胞が他の臓器を圧迫することで腎機能が低下します。進行すると嚢胞が増大して腎不全に至り、透析治療が必要になります。 嚢胞は時間をかけて徐々に増加、拡大していきます。そのスピードは個人差が大きく、1年間の増大率は5~17%です。多くの場合、30~40代ぐらいまで無症状のまま過ごし、その後、腹痛や腹部の張り、血尿などの症状が現れます。約半数が60歳までに腎不全になるといわれます。 多発性嚢胞腎の原因遺伝子には「PKD1」と「PKD2」の2種類があり、両親がどちらかのPKD遺伝子を持っていた場合、50%の確率で子どもに遺伝します。発症率は約4000人に1人の割合で、日本国内の患者数は約3万1000人ともいわれます。遺伝性腎疾患の中で最も多い病気ですが、腎臓専門医以外の医師の間ではあまり認知度が高くありません。 両親のどちらかがこの病気の場合、若いうちに検査を受けて早期発見するケースもあれば、今回の企画に応募されたひとみさんのように、腹痛などの異常をきっかけに判明する人もいます。 しかし最も多いのは、健康診断や怪我をした際にエコーやCT検査を受け、偶然、嚢胞が見つかるパターンです。もし、腎臓が専門ではない先生が嚢胞を見つけられた場合には、遺伝性疾患の可能性があることを念頭に置き、家族歴を詳しく聞いていただきたいです。そのうえで、やはり多発性嚢胞腎が疑われるようでしたら、腎臓専門医へご紹介ください。 治療法は内服薬のサムスカ(一般名:トルバプタン錠)の服用が一般的です。サムスカは利尿剤で、嚢胞の増大を抑制する作用があるとされています。ただし副作用で高ナトリウム血症を引き起こす恐れがあるため、服薬と同時に1日2リットルほどの飲水が必要です。そのため頻尿に耐えられない人や、多量の飲水が苦手な人は使用できません。薬価も高いため、サムスカの特徴を説明し、納得された患者さんに処方しています。 なお、治療中は他の腎不全と同様、普段から水をたくさん飲み、服薬や食生活の改善で血圧や血糖の上昇を抑え、腎機能低下のスピードを遅らせるように留意してもらいます。 【解説】 小千谷総合病院付属十日町診療所 腎臓内科 吉澤優太先生

疾患があっても安全な、2日間の旅(CaNoWからの報告)

ひとみさんのご家族は、お祖母様とお母様も多発性嚢胞腎を患っていました。お2人は透析を始めて1年ほどで合併症により他界されました。ひとみさんは、2021年秋からご自身も透析を始められたことで、息子の響くんと遠出したいと考えるようになったそうです。 現在の容体は、腹部膨満による動きづらさに加え、腎性貧血による息切れがあり、長距離歩行が困難とのこと。遠出をためらう要因となっていました。 そこでCaNoWでは、ひとみさんの体に負担をかけずに思い出を作られるように、1泊2日の旅を企画しました。行き先は八ヶ岳のホテルです。CaNoWの看護師スタッフも同行して車で送迎し、万全の体勢を整えました。

ホテル内は車椅子で移動。身体の負担を最小限に

旅の初日は、陶芸体験にチャレンジしてもらいました。ろくろに乗せた粘土のかたまりを前に、ひとみさんも響くんも真剣な表情で取り組みます。「力の加減が難しかった」とひとみさん。頑張った末、形に残る旅の記念ができました。
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その後、宿泊先のホテルへ戻り、CaNoWスタッフは車椅子を手配。疲れが溜まらないよう、ホテルの敷地内での移動も車椅子を利用してもらいました。 ホテルの庭で開催していたヤギのお散歩体験や、ピザの窯焼き体験などに参加し、響くんが大活躍! マイペースなやぎの扱いに苦戦したり、高温の窯でチーズピザを焼き上げたりする様子を、ひとみさんが穏やかに見守ります。
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串に刺したマシュマロを火で焼く焼きマシュマロ体験では、「怖くないよ」と響くんを励まし、手本を見せるひとみさん。頼れるお母さんの姿がそこにありました。

座ったまま楽しめるカヤックでリフレッシュ

2日目、ひとみさん親子を待っていたのはカヤック体験です。座ったままできるアウトドア体験は、ひとみさんの心身のリフレッシュによさそうです。 親子で1艘のカヤックに乗り込み、「左、右、左、右……」とかけ声をかけながら、パドルを大きく漕ぎます。さわやかな山岳気候とはいえ、この日は青空が広がるカヤック日和。別のカヤックで同行した看護師が、「暑くないですか?」と体調を気遣います。
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体験を終えて、「一緒に息を合わせてこげたのが嬉しかった」と響くん。ひとみさんとの素敵な思い出が、またひとつ心に刻まれたことでしょう。ひとみさんは「自分で漕いで進んでいくのが面白かった」とにっこり。体を使ったアクティビティをやり遂げたことは、自信につながったのではないでしょうか。
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2日間の旅では、車椅子を押したり荷物を運んだりと、ひとみさんを思いやる響くんの姿が印象的でした。これまで以上に響くんを心強く感じ、「これからも一緒に、色々なところへ行ってみたい」と話すひとみさん。今回の旅は、二人の絆を深める時間となったようです。
※CaNoWとは、エムスリー株式会社が展開する『病や障がいと共にある方』の願いをかなえるプロジェクトです。CaNoWは、病や障がいと共にある方の願いを、医療×人×ITの力で叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

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