友人のがんは、自分の専門外…。一般人のように恐怖だった

この記事は、2023年3月6日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 57 「友人のがんは、自分の専門外…。一般人のように恐怖だった」のタイトルで掲載されたものです。

HBOCと闘病した堤安紀子さん(左)と、友人として支えた岩瀬真弓先生

大阪府に住む堤安紀子さん(40歳)は、2021年11月に遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)と診断されました。当時堤さんは、3歳と1歳のお子さんの育児真っ最中。家族や友人に支えられながら治療に取り組み、2022年3月、寛解に至りました。その友人とは、医師の岩瀬真弓先生です。堤さんは「家族と岩瀬さんに感謝を伝えたい」と考え、CaNoWの企画に応募。手作りの「感謝会」を実現させました。
今回は、感謝会の様子とあわせ、友人かつ医師として堤さんをサポートした、岩瀬先生のインタビューをご紹介します。

幼子2人抱え、遺伝性乳がん卵巣がん症候群と判明

堤さんのがんの発覚と治療経過は、次のとおりです。2021年5月、乳房に小さなしこりを見つけ、大阪のクリニックを受診。この時は良性の可能性を示唆され、経過観察となりました。その後、わきの下に痛みを伴うしこりがあらわれて気になったため、帰省先の千葉で乳腺外科を受診。同年9月、右乳がんステージⅢcと診断されました。また、若年の乳がんでトリプルネガティブだったことから、医師の提案で遺伝カウンセリングと遺伝子検査も実施。遺伝性乳がん卵巣がん症候群(BRCA1遺伝子変異)と判明しました。
治療は術前化学療法をへて、右乳房切除とリンパ節郭清、左乳房も予防切除。その後、病理検査の結果、寛解と告げられました。今後、卵管・卵巣も予防切除を予定しています。

闘病を振り返るVTRを制作、お礼を語りかける

CaNoWが開催に協力した「感謝会」の会場は、千葉市内のホテルの会議室。当日は、堤さん夫婦とお子さん2人、実のお母さん、義理のお姉さんと甥御さん、岩瀬先生と3人のお子さんが一堂に会しました。
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VTRの中で、闘病生活を振り返る堤さん
会は堤さんとCaNoWスタッフが制作した13分間のVTRからスタート。スクリーンに映し出された堤さんが、闘病を振り返り、皆さんにお礼を述べていきます。
実家の二世帯住宅に住むお兄さん家族は、いつも生活の中で温かく接してくれたそうです。岩瀬先生は、主治医を一緒に探し、受診のたびにLINEで励ましてくれて、心強い存在だったことが明かされました。
そして育児や家事を全面的に助けてくれたお母さん。眠れない夜、お母さんが堤さんを抱きしめて、一緒に布団に入ったこともあったそうです。涙ながらに話す堤さんに、会場ももらい泣き……。

とびはねながら、元気いっぱいにダンスを披露

堤さんとお子さん2人による元気いっぱいのダンスも披露。『ぼくたちぶどう』の歌に合わせ、とびはねる姿からは、5か月前まで放射線治療を受けていたことを感じさせません。会場も手拍子で盛り上げます。
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堤さんとお子さん2人がかわいらしいダンスを披露
その後は、堤さんによる皆さんへのプレゼント贈呈へと移ります。堤さん家族が各テーブルを回り、改めて一人ひとりにお礼を伝えながら、堤さんがガラス工房で制作したペーパーウェイトと、花束を手渡しました。

この日のために堤さんは、3か月かけて準備に取り組んできました。隅々まで心のこもった感謝会。伝えたかった「ありがとう」の気持ちは、ご家族や岩瀬先生たちにしっかりと届いたに違いありません。

岩瀬真弓医師インタビュー
「がんになった…」友人の闘病、自分にできることは?

前述の通り、岩瀬先生は友人として堤さんの闘病を支えました。もしも、友人からがんを打ち明けられたら。それも、自分の専門外の領域だったら、医師は何を考え、どう行動するのでしょうか? 感謝会から数日後、CaNoWスタッフは岩瀬先生にインタビュー取材を実施しました。
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岩瀬真弓先生(JFEスチール株式会社、産業医)
私は産業医として、(堤)安紀子さんが働く企業にかかわっていました。安紀子さんと友人になったのは今から5~6年前、上司に誘われて行ったゴルフの練習会に、彼女も参加していたことがきっかけでした。以来、飲みに行くなど親しい仲に。2年ほどして彼女は結婚退職をし、大阪に転居しましたが、その後もたまに会ったり、LINEでやり取りをしたりしていました。

2021年9月、安紀子さんから「がんと診断された」と連絡をもらいました。私はもともと小児科医なので、がん患者を診ることはほとんどありません。馴染みがないぶん、一般の人と同じようにがんへの恐怖心を持ちながら行動したように思います。

まずは信頼する看護師で乳がんの闘病経験がある方に、どこで治療したのかを尋ねました。すると、千葉大学病院の乳がんの専門医に診てもらったとの答え。千葉大病院には私の夫が勤務しており、乳腺外科の評判は高いと聞きました。そこで安紀子さんに、「設備も充実しているし、先生の腕も良いから」と、千葉大病院での治療を勧めました。

すると偶然にも、安紀子さんが通っていたクリニックに、その千葉大病院の先生が非常勤で来ていることがわかりました。
ある朝、「千葉大病院の先生に診てもらうため、今タクシーでクリニックに向かっている」と安紀子さんから連絡をもらいました。不安でいっぱいの彼女に寄り添いたくて、同行を申し出ました。さらに彼女に頼まれて診察室の中まで付き添いました。数日後、安紀子さんは千葉大病院での精密検査、入院治療を受けることになりました。
私は、医療者の友人として、少しでも良い先生につなげてあげたい。特別なことはできないけれど、少しでも気持ちの支えになりたいと考えていました。

また、気分転換になればと、安紀子さんとお子さんたちを自宅に招いたり、実家のご家族も一緒にみんなでアミューズメントパークに出掛けたりもしました。受診日には毎回LINEでメッセージを送り、彼女も検査や診療の結果を逐一報告してくれました。
患者さんとご家族は距離が近いからこそ、長期間一緒にがんと闘う中で、息苦しくなることもあるでしょう。だから、私のような第三者が“緩衝材”として入れればとの思いもありました。

今回、感謝会を開いてくれたのも、彼女らしいアイデアと行動力のたまものですよね。互いの感謝を伝え合うことができた温かい会でした。プレゼントのペーパーウェイトを見るたび、懐かしく思い出します。私は医師ですが、そこまで生死についてちゃんと考えて生きてきただろうかと、安紀子さんから教えられました。
※CaNoWとは、エムスリー株式会社が展開する『病や障がいと共にある方』の願いをかなえるプロジェクトです。CaNoWは、病や障がいと共にある方の願いを、医療×人×ITの力で叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

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