「研究者に助成」を行う患者会。医師に知ってほしい切実さ

この記事は、2023年4月19日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 57 「研究者に助成を行う患者会「医師に知ってほしい」切実なこと」のタイトルで掲載されたものです。



遺伝性疾患情報の専門メディア「QLife遺伝性疾患プラス」は、サイトオープン2周年を記念し、「CaNoW」(※)とともに患者さんとご家族の願いを叶える企画を実施しています。今回の応募者は、大阪府に住む谷岡哲次さん。谷岡さんの長女、紗帆さん(14歳)は、遺伝子変異による神経難病「レット症候群」と闘っています。谷岡さんは、認定NPO法人レット症候群支援機構を立ち上げ、疾患の啓発や、研究者への研究費助成などに励んできました。レット症候群の患者さんはほとんどが女の子であることから、「おしゃれをした患者さんたちを写真撮影してほしい!」と考えたそうです。撮影の様子とともに、谷岡さんから「医師に知ってほしいこと」のインタビューをお届けします。

ほぼ女児のみに発症。ハイハイやお座りができなくなって…

レット症候群は先天性の進行性神経疾患です。レット症候群支援機構のサイトによると、 発症率は女児出生1万~1万5000人に1人。また、多くはX染色体に存在するMECP2遺伝子の突然変異が原因と言われています(出典:難病医学研究財団/難病情報センター)。X連鎖優勢遺伝のため、患者さんのほとんどが女性です。
生後半年~1歳頃までは普通に成長しているかに見えますが、その後、知能、言語、運動能力が低下します。症状の幅は広く、多くの患者さんで言葉が話せない、手の常同行動、側弯症、てんかん、息こらえなどの症状が現れます。

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谷岡哲次さん(レット症候群支援機構 代表)

今回、CaNoWに応募された谷岡さんが、長女の紗帆さんの異変に気づいたのは、生後10カ月を過ぎた頃でした。「それまでできていたハイハイやお座り、手でものを持つことなどが、徐々にできなくなっていきました」と話します。
現段階で治療法は確立されておらず、対症療法のみ。紗帆さんも言葉を発せず、ほぼ寝たきりの生活を送っています。

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一人でお座りができていた紗帆さん。

啓発カラーのラベンダー色に包まれ、仲間と一緒に撮影

谷岡さんからCaNoWに応募された願いは「娘をオシャレで楽しませたい!」でした。そこでCaNoWは、プロのヘアメイクとカメラマンを手配し、撮影会を実現することに。谷岡さんご家族3人に加え、レット症候群支援機構の会員のお子さん3人とそのご家族にも参加していただきました。


撮影に入る前に、ヘアスタイルをアレンジ。普段とは違う自分の髪形を見て、ニッコリ笑顔になる女の子も。

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ドレスに着替えたら撮影会場へ。ドレスと背景のお花の装飾は、レット症候群の啓発カラーであるラベンダー色でコーディネートしました。華やかに着飾った紗帆さんたちに、「みんな、撮るよ」「上手ー!」と、気分を盛り上げるカメラマン。プリンセスのようにキュートな4人の姿に、ご家族から何度も「すてき」「かわいい」と歓声が上がりました。

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紗帆さん(一番左)と、レット症候群支援機構のお友達

「レット症候群の子は感受性と表情が豊か」という谷岡さんの言葉どおり、彼女達の魅力があふれる写真が出来上がりました。
撮影後、谷岡さんは、「写真を見た人がレット症候群に関心を持ち、ネットで調べたり、この病気について話したりなどのアクションをしてもらえたら」と、期待を語ってくれました。

谷岡哲次さんインタビュー「患者家族が、医師に知ってほしいこと」

───谷岡さんが創立したレット症候群支援機構では、レット症候群の治療法の確立を目指し、研究費の支援を行っていらっしゃいます。患者家族会の取り組みとしては珍しいのではないでしょうか。

そうですね。紗帆をレット症候群と診断した医師から、「海外では何億円という寄付を集めて、患者会が病気の研究を後押ししている」と聞いて、「日本でも同じことができたら」と思って始めました。レット症候群の研究者を対象に、これまで総額1600万円の支援を実現しました。助成先は公募して選んでいます。助成金は団体や個人からの寄付で集めました。

───海外でも、レット症候群の研究は盛んなのですか。

今年3月、米国食品医薬品局(FDA)がレット症候群に対する初めての治療薬を承認しました。一部症状を緩和させる薬です。私たちは、この薬を日本の未承認薬迅速実用化スキームの対象にしてほしいと、厚生労働省に働きかけています。ただ、なかなか壁は高いですね。厚労省からは、迅速承認に乗せるかどうか検討するための資料が足りないと言われ、NPOの仲間と協力して用意しているところです。


これとは別に、米国では根本治療となる遺伝子治療薬の研究も進んでいます。いよいよ治験を開始すると発表した海外の製薬会社と、日本のアステラス製薬が契約を結びました。日本での遺伝子治療実現に向けての大きな一歩だと感じています。

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───治療薬について、よいニュースも入りつつあるのですね。

ただ、いざ日本でレット症候群の治験をしようとなっても、条件に合う被験者を研究者が探すのは大変です。そこで私たちは「レッコミ」という、患者家族専用アプリを開発しました。2021年に始動し、現在(2023年2月)300人ほどの患者さんが登録しています。患者さんの症状、年齢、居住地域などの情報を入力してもらっています。治験のリクルートの依頼があれば、アプリ内で登録者にお知らせをして協力を仰いだり、また、研究者や製薬会社が患者家族にアンケートを取りたい時にも、オンラインですぐに回答を集めて提供できます。

 

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レット症候群患者さんをつなぐアプリ「レッコミ」の画面

 

もしこの記事を読んでいる中に、レット症候群の研究をしている医師がいらっしゃいましたら、こうした患者情報を提供できますので、ぜひ僕ら患者家族会と協力することを検討していただければと思います。
また、実際にレット症候群の患者さんを診ている医師がいらっしゃいましたら、ぜひ患者さんに「レッコミ」のことを伝えて、登録者増につなげてもらえるとうれしいです。

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レット症候群支援機構のチャリティーTシャツを着て。

研究者任せではなく、患者会も勉強している

───患者さんとの間を取り持ってもらえることは、研究者にとっても心強いことでしょう。

はい。私たちは、年に一度、研究者を講師に招き、患者家族が医学の基礎を学ぶ勉強会も開いています。いざ実際に治験に入るとなると、当然リスク面も説明されます。その時に、不安に駆られることなく、ちゃんと自分で参加の可否を判断できる知識を身につけておいていただきたいからです。

───研究者にお任せではなく、患者家族の方々も情報や資金提供をし、勉強もしながら、治療法の確立に向けて努力されているのですね。最後に、谷岡さんは昼間は会社員として働きながら、レット症候群支援機構の活動を力強く進めていらっしゃいます。そのモチベーションはどこからくるのですか?

創立当初は「紗帆を何とかしたい」という思いでした。でも今は団体の規模が大きくなり、レット症候群の仲間が増えてきました。僕個人だけの問題ではなく、仲間達の思いも背負って頑張っているつもりです。そして、この活動を通して何かを形として残せたら。それが、紗帆が生まれてきた意味につながるのかなと思います。

※CaNoWとは、エムスリー株式会社が展開する『病や障がいと共にある方』の願いをかなえるプロジェクトです。CaNoWは、病や障がいと共にある方の願いを、医療×人×ITの力で叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

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