治療で3都市を行き来。親子が、師に託した「あるもの」

この記事は、2023年4月11日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 58「治療で3都市を行き来。親子が医師に託した「あるもの」」のタイトルで掲載されたものです。



宮城県に住むゆうきくん(6歳)が両眼性の「網膜芽細胞腫」と判明したのは、生後5か月の時でした。以来、およそ2年間にわたり、抗がん剤などの治療を繰り返します。その後は経過観察となりますが、6歳で再発。家族で悩んだ末、右側の眼球の摘出手術を受けました。今回、「CaNoW」(※)に応募してくれたのは母親のひろこさんです。「家族そろってお出かけしたい」との願いを叶えるため、CaNoWスタッフは、ゆうきくんの好きなものをテーマにした家族旅行を実施しました。

宮城と東京、京都を行き来した闘病生活

ゆうきくんの闘病は、医療の「地域差」に直面された年月でもありました。
「眼の異常に気づき、地元の眼科から基幹病院である東北大学病院を紹介されました。しかし、同院では診断をつけることができないため、東京の国立がん研究センターを受診するように言われたんです。翌日、急きょ上京して検査を受け、両眼性の網膜芽細胞腫と診断されました」と、母親のひろこさんは振り返ります。
網膜芽細胞腫は希少疾患であるため、大学病院でも診断がつけられない場合があるようです。
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ゆうきくん0歳の頃。眼の違和感に気づいたのは、7つ年上の姉みゆさんだったとのこと。
診断がついたあとは東北大学病院に戻ってフォローアップを受け、半年間、抗がん剤治療を受けました。すると右眼の腫瘍は縮小し、左眼では消失と奏功しました。その後は、月に一度、国立がん研究センターで局所治療を受けながら、宮城と東京を往復する生活が2年間ほど続きました。

しばらく病状は安定し経過観察でしたが、ゆうきくんの6歳の誕生日に再発が判明。治療を再開し、「右の眼球を温存するか、それとも摘出か」という厳しい選択を迫られました。ゆうきくんもご家族も悩み、全員で話し合った上で眼球摘出を決意します。
しかし、ここでも受け入れ態勢の壁が立ちはだかりました。国立がん研究センターの主治医は「義眼台」を入れることを勧めますが、その手術は同院ではできないとのこと。京都府立医科大学附属病院を紹介され、右眼の摘出と義眼の装着手術を受けました。

幼いゆうきくんを抱え、長距離移動をしながら治療を続けてきたひろこさんは「より多くの医師にこの病気への理解を深めてほしい」と願っています。そこで、これまで集めた網膜芽細胞腫の資料などを東北大学病院小児科の血液腫瘍科に渡したそうです
「『これから生まれてくる網膜芽細胞腫の子ども達と、その家族が安心して治療を受けられるように、力になってあげてください』とお伝えしました」(ひろこさん)

眼球摘出後は、2日間もしゃべらなかった

右の眼球の摘出手術をした時の様子については、こう話します。
「ゆうきも6歳になり、自分のおかれた状況を理解できるぶん、手術室に送り出す時はつらかったです。手術後、ゆうきは2日間ほどしゃべりませんでした。わかっていても、眼球を失うことはショックだったのでしょう…」
こうした経験を乗り越えてきたゆうきくんに、何かご褒美をあげたいと考え、ひろこさんはCaNoWに相談されたのです。
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応募者のひろこさん(写真左)と、息子のゆうきくん。
企画実施前にオンラインで打ち合わせ。
CaNoWスタッフがゆうきくんにヒアリングを実施すると、「家族でお出かけしたい」と話しました。今まで遠くへの外出といえば母子で病院に行くばかりだったからです。
さらに好きなものをたずねると、ゲーム「スプラトゥーン」(任天堂)や動物との触れあいなどという答えが返ってきました。
スプラトゥーンはインクを噴射し、塗った面積を競う大人気ゲームです。そこでCaNoWでは、実際に体を使って「リアルスプラトゥーン体験」ができる施設と、その近くにある水族館を訪問する、1泊2日の家族旅行を提案しました。

生まれて初めて見るシャチのパフォーマンスに釘付け

旅行初日。東京駅にひろこさんとゆうきくん、父親のようすけさん、姉のみゆさん(中1)、兄のはるきくん(小5)が揃って姿を現しました。ここでCaNoWスタッフと合流し、ドライブを楽しみながらタクシーで目的地へと向かいます。久しぶりに家族での遠出とあって会話も弾み、一家の高揚感がCaNoWスタッフにも伝わってきます。

まず訪れたのは千葉県鴨川市にある「鴨川シーワールド」。一番のお楽しみは、海の王者であるシャチのパフォーマンスです。水しぶきをあげ、豪快にジャンプ! 次の瞬間にはトレーナーを乗せて高速で泳ぎ回るなど、次々と繰り出される大技にゆうききくんは興味津々の様子。
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鴨川シーワールドに到着!
翌日は、千葉県鋸南町にあるコワーキングスペース「鋸南エアルポルト」へ。旅のメインイベントである「リアルスプラトゥーン体験」の実施会場です。
ここで、懐かしい再会が待っていました。ゆうきくんと同じ病気を持ち、国立がん研究センターで同じ時期に治療を受けていた男の子とお母さんが、リアルスプラトゥーンに参加するために来てくれたのです! その男の子も義眼を装着しており、ゆうきくんと同じです。
子ども2人は当時は幼かったため、お互いの記憶はありません。しかし、すぐに打ち解け、元気いっぱいに走り回る姿は、まるで昔からの親友のようでした。

友達に教えられた、義眼を受け入れて生きる強さ

いよいよリアルスプラトゥーン体験の始まり。絵の具を混ぜて作った「インク」を白い布に噴射し、広い面積を塗った方が勝つ「陣取りゲーム」や、ティッシュの的を水鉄砲で落下させる「撃ち落としゲーム」に、真剣な表情で挑むゆうきくんたち。Tシャツに自由に絵を描く「絵付け」にもチャレンジしました。
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思いっきり絵の具を噴射する「陣取りゲーム」。
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夢中でTシャツに絵を描くゆうきくん。
「普通では経験できないことをさせていただきました。あんなに楽しそうなゆうきの姿を久しぶりに見ました」(ひろこさん)
手を絵の具だらけにしながら、大人も子どもも一緒になって思いきり遊びました。
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リアルスプラトゥーンの後、インタビューに応えるひろこさん。
企画終了後、ひろこさんはある「変化」に気づいたそうです。それまで、自分の眼のことを気にしていたゆうきくんですが、同じ病気の友達が自信たっぷりに振る舞う姿に接し、不満を口にしなくなったというのです。
「きっと『堂々としていていいんだ』との気持ちが芽生えたのでしょうね」(ひろこさん)

この春から晴れて小学生になるゆうきくん。今回の旅は、新生活へ踏み出す自信につながったのではないでしょうか。
※CaNoWとは、エムスリー株式会社が展開する『病や障がいと共にある方』の願いをかなえるプロジェクトです。CaNoWは、病や障がいと共にある方の願いを、医療×人×ITの力で叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。
掲載元媒体:m3.com

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