進行がんと闘う女性「3人の幼子を、夫に託す日のために…」

この記事は、2023年12月28日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: EBMの先へ/患者の願い叶える『CaNoW』Vol. 65 進行がんと闘う女性「3人の幼子を、夫に託す日のために…」のタイトルで掲載されたものです。

埼玉県在住のAさんは、スキルス胃がんと闘う30代の女性です。6歳と、3歳の双子の男の子のお母さんとして、「自分がいなくなったあとのことが心配でたまらない。夫が一人で3人を育てていくために、何か残しておけるものはないでしょうか」とCaNoW(※)にご相談くださいました。そこでCaNoWでは、愛する家族の今と未来に思いを伝える2つのプロジェクトをご提案しました。その模様をレポートします。

医師からは「手術は難しい」と告げられた

Aさんのがんが発覚したのは2021年。何気なく受けた人間ドックをきっかけに、スキルス胃がんのステージⅣと診断されたのです。リンパ節への転移と、腹膜播種も認められたことから、医師からは「手術は難しい」と告げられました。
しかし、諦められないAさんは、抗がん剤の腹腔内投与を受けることを選択。すると、腹膜播種の消失が認められたことから、胃の全摘術を行いました。食後にはダンピング症状にも見舞われましたが、乗り越えてきました。
ところがその後、卵巣に転移が見つかり摘出。現在はリンパ節転移に対する抗がん剤投与と、腹膜播種の再発を防ぐため抗がん剤の腹腔内投与を続けています。

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家族への想いを語るAさん(右)と、CaNoWスタッフ

がんと告知された時のことを、Aさんはこう振り返ります。
「あの時点で、医師からは『もう治らない』と厳しいことを言われました。自分のような思いをする人が一人でも減るように、がん検診は必ず受けてほしい」


夫のYさんも大きなショックを受けました。
「信じられないという気持ちが大きくて。時間をかけて咀嚼しながら、自分の中で受け入れていきました」


ずっと一緒に歩んできたお二人。YさんはAさんの性格を「一度決めたことは歯を食いしばってでもやるタイプ。弱音を吐かないのが弱みでもあります」と感じています。しっかり者だからこそ心配。大病を患う妻への、夫の思いがにじみます。

あの看護師がいると「ああ、よかった」と思う

病気とわかり、Aさんがもっとも不安を覚えたのは、まだ幼い3人の子どもたちのことでした。「中高校生くらいの男の子を見かけると、自分はわが子のこういう姿を見られないんだな、と思ってつらかったです」(Aさん)と切実な胸の内を打ち明けます。
深く落ち込む日々が続きますが、そこから気持ちを前に向けてくれたのも、やはり子どもたちの存在だったそうです。
「子どもがいなければ、病に負けていたと思います。正直、治療をやりたくないと思う日もあるので……。でも、子どもたちといると元気をもらえます。毎日、家事や育児をしなければならないので、病人らしく過ごしていられない。それが逆にいいんだと思います」(Aさん)
子どもたちを支えることで、自分も支えられているという実感。それこそが、Aさんが治療を頑張れる原動力なのです。


そして、家族以外にもう一人、心を支えてくれる存在がいます。それは、月2回の受診時にお世話になる看護師。Aさんのために室内の温度調整を気遣い、寒い日はあんかを入れてくれたこともあるそうです。受診日にその看護師が出勤していると「ああ、よかった」とホッとするとのことでした。

手作りマグカップに、家族の名前を刻んだ

CaNoWでは、Aさんの思いをヒアリングした上で2つの企画をプラニングしました。1つが、Yさんと一緒に陶芸体験をして、家族のマグカップを制作するもの。家族への思いを、形として残してもらうためです。

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夫のYさん(左)と一緒に、マグカップづくりに挑戦するAさん

10月、Aさんと夫のYさんとCaNoWスタッフは「わらび陶芸教室」(埼玉県蕨市)に集まりました。先生の指導のもと粘土を延ばしたり、パーツごとに切ってくっつけたりと、慣れない作業に二人で熱心に取り組みます。
Aさんの表情がひときわ真剣味を増したのが、カップの底に、Yさんと子どもの名前を刻む工程です。一文字ずつ、思いを込めていることが伝わってきます。最後に丸い耳もつけ、Aさんが好きなクマをモチーフにしたマグカップに仕上げました。


その時、Yさんからのサプライズ! Aさんのために花束と、感謝をつづったメッセージカードを用意していたのです。「僕と結婚してくれて、父親にしてくれて、幸せの大切さを教えてくれて本当にありがとう。愛してるよ」。Yさんの素直な言葉に、Aさんは涙を浮かべながら「最高です」と微笑みました。

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Aさんの好きなピンク色の花をサプライズプレゼント
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陶芸体験から数日後、きれいに焼きあがった4つのマグカップ

未来の指定日に届くビデオレターを撮影

CaNoWが用意した2つ目の企画は、ビデオレターの撮影です。
未来の指定した日に、郵便で手紙を届けられるサービスを利用しました。2025~2034年の10年間、毎年元旦にAさんのメッセージを収めたビデオレターのUSBメモリと、撮影風景を写した写真が家族のもとに届きます。
このビデオレター企画は、子どもたちにはまだ内緒。Yさんにも、具体的な内容や日程は、手紙が届くその時まで秘密です。

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ビデオ撮影は、家族で遊んだ思い出の公園や、自宅で行いました。プロのカメラマンのカメラを前に、子ども一人ひとりの名前を呼びかけるAさん。「小学校生活は慣れましたか?」「2分の1成人式で、もう半分大人だね」と、未来のステージへと優しく背中を押します。


育児を担うYさんへの、感謝といたわりの言葉も忘れません。
「皆がちっちゃい頃、全然寝なくて、お父さん、2時間も本読みしていたことあるよ」と、家族の微笑ましいエピソードにふれたかと思えば、「ご飯も着替えも、できるならお母さんが手伝ってあげたかった」と、母としての叶わぬ思いも織り込まれて……。

10年以上先の家族へ、大切なメッセージ

ビデオレターを送るサービスは、指定できる日が最長10年後。そのため、10年目に届く最後の手紙には、子どもが18歳になった時や、結婚した時を想定して「その時に見てほしい」ビデオレターなども同封しました。10年以上先の家族への思いも残すことができ、Aさんは「安心しました」と感想を口にされました。

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撮影数日後には、CaNoWにこんなメッセージを寄せてくれました。
「病気が発覚してからは、受け入れたり深く考えたりするのが怖かったです。しかし今回、このようなチャンスをいただき、家族に対しての自分の気持ちに向き合うことができました。できる限り、家族に愛していると伝えていきたいと思います」(Aさん)


ビデオレターに刻まれたAさんの深い愛情は、どんな時も、未来の家族をしっかりと支えていくことでしょう。

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