がんの治療による脱毛や、爪、皮膚の変色といった外見の変化をケアする「アピアランスケア」。がん診療連携拠点病院を中心にアピアランスケアの相談窓口を設ける病院は増えてきました。しかし、小児がんの患者さんや家族の中には「知らなかった」という声も。今回、CaNoWに相談を寄せてくれた三宅円夏さんもその一人です。次女の紫穂さん(小学4年生)が神経芽腫の治療で脱毛し、対応に悩みを抱えておられました。CaNoWでは、紫穂さんが自分らしくおしゃれをする企画を実施したほか、小児のアピアランスケア(チャーミングケア)に詳しい石嶋瑞穂さん(一般社団法人チャーミングケア代表)にお話を伺いました。

周囲から心無い言葉を投げつけられたことも
3歳で神経芽腫と診断された三宅紫穂さん(小学4年生、神奈川県在住)。頭蓋骨にある腫瘍に陽子線治療を受けたところ、毛根への影響が大きく、生涯にわたって発毛が望めなくなりました。ウィッグをあつらえたものの、紫穂さんにとってはあまり気が進まないものでした。現在、定期的な通院や入院をしながら小学校に通っていますが、周囲から心無い言葉を投げつけられたこともあり、悲しい思いをしてきたそうです。
姉の夏葵(なつき)さんも、そんな妹に遠慮しておしゃれを楽しみにくいと感じていました。そこで母親の円夏さんは、「姉妹2人の、おしゃれをしたいという気持ちを叶えてあげたい」とCaNoWに応募。CaNoWでは、プロの力を借りて思う存分、姉妹におしゃれを楽しんでもらいました。


ある日、神奈川県横浜市にある「スタジオキャラット」に、ヘアメイク、スタイリストと三宅さん家族が集合しました。慣れないスタジオに緊張しながらも、浴衣やドレスなどに身を包む紫穂さん、夏葵さん。衣装はスタイリストと一緒に選びました。紫穂さんは手持ちのウィッグを、プロのヘアメイクの手でかわいくアレンジ。カメラマンの前で、嬉しそうな表情を見せます。
これまでウィッグをかぶることに抵抗感があった紫穂さんですが、撮影中は一度もウィッグを嫌がる様子は見られませんでした。自分らしく過ごす方法の一つとして、ウィッグもあることを感じてくださったのかもしれません。
がん患者さんの「アピアランスケア」は、見た目の補正そのものだけでなく、外見の変化に起因する心理・社会的な問題もケアすることを重視しています。今回の企画を通して、紫穂さんのこころが軽くなり、毎日の生活がより楽しくなることをCaNoWは願っています。

小児のアピアランスケア=「チャーミングケア」の意義
ここ数年、アピアランスケアは成人の患者さん向けには徐々に広まってきました。しかし、小児の患者さんに対する認知度はまだまだ低いのが現状です。一般社団法人チャーミングケア代表の石嶋瑞穂さんは、病と生きる子どもたちの外見ケアを「チャーミングケア」と名づけ、普及活動を行っています。現在の課題や、普及に向けての取り組みを伺いました。
───石嶋さんが、子どもの外見上のケアの必要性に気づいたきっかけを教えてください。
石嶋 長男が小学2年生の時、急性リンパ性小児白血病と診断されました。病院に入院中、彼はそんなに気に入っていない病院支給のクマ柄の検査着を着て、院内学級まで行かねばならないことをひどく嫌がりました。私は「子どもだし、気にする必要もないでしょう」と受け流していたのですが、彼が看護師さんに「じゃあ、この格好で寮から病院に来られる!?」と言った時、「それはたしかに嫌だなあ」と、気持ちが理解できたのです。
また、治療で中心静脈カテーテルカバーが必要になった時、当時は市販品がなかったため、知人に作ってもらいました。有名ブランドの生地でできたそのカバーを長男はすっかり気に入り、看護師さんに自慢するほどでした。
こうした長男の言動を通し、大人が思っている以上に子どもも外見を気にしているし、ケアが必要だと考えるようになりました。
2020年、子どもの医療系グッズをオンラインで委託販売する「チャーミングケアモール」を開設。2023年には商品を展示販売するショールーム「チャーミングケアラボ」を、大阪府池田市にオープンしました。
「アピアランス助成金」のある自治体は約半数
───自治体によるアピアランス助成金の実態調査もされていますね。
2023年の調査結果では、約半数の自治体ががん患者さん向けに「アピアランス助成金」を設け、補正具購入費の助成事業を行っています。ただ、助成の対象品目がウィッグと、乳がんの患者さん向けの製品に限定しているところがほとんど。もっと誰もが支援を受けられるようにしてほしいと、厚生労働省に陳情書を提出しました。
特に子どものアピアランスケアは、その必要性自体が十分に認識されていません。そこで、助成事業に子ども自身の意見も反映してもらうため、子どもを対象としたアンケートを実施予定です。
───2021年度に助成を申請した約7000人のうち、18歳以下の申請はわずか11人との結果もありました。
利用者が少ない理由には、医療機関や行政からの情報提供が乏しく、助成金の存在自体が知られていないことが挙げられます。調査時に申請開始したばかりの大阪府のある市区町村では申請数が増えていますが、これは駅や病院、コンビニ、認定こども園などに協力を仰ぎ、広報に力を入れた結果です。
また、入院中の子どもに付き添わなければならない保護者にとっては、申請のため役所まで足を運ぶのは難しいもの。その点、申請数が群を抜いている神奈川県の市区町村では、自治体と病院が連携し、病院で直接申請できるようになっているんですよ。
見た目の変化によるいじめなどを回避
───子どものアピアランスケアについて、医療者側の意識の変化は感じますか?
急性リンパ性小児白血病の場合ですが、治療技術の著しい進歩によって長期生存できる割合はずいぶん上昇しています。そうなると病院側にも、「治ったら終わり」ではなく、「退院後、社会に戻ったあとのことも考えなければいけない」との風潮が強まっているようです。見た目の変化が原因で、友達に嫌なことを言われて塞ぎ込んでしまったり、不登校や引きこもりになることもあります。それを解決する手段の一つとして、アピアランスケアについても少しずつ、考えてもらえるようになってきたと感じます。
───子どものアピアランスケアの実現には、医療者だけでなく、まわりの大人の支援が欠かせないですよね。
そうですね。長男は髪がない時は、帽子をかぶって学校に行っていました。「友達に何か聞かれたら、『薬の影響でこうなっているんだ』などと答えればいいよ」と返し方を伝えたら、ホッとしたようでした。
これは、大学病院の院内学級で教える副島賢和さん(昭和大学大学院准教授)のインタビューの際にお聞きしたのですが、周囲から何か聞かれても、必ずしも答える必要はないことを、教えてあげるのもよい方法です。「ごめん、今は答える気分じゃないんだ」と言えば、お互い嫌な思いをせずにすみます。
アピアランスケアは、「ウィッグや帽子をかぶり、見た目を補正すれば解決」というものではありません。子どもの場合は、外見のケアに加え、大人が周りとの接し方をちょっとフォローしてあげることで、社会で過ごしやすくなるのではないでしょうか。
───子どもの方から、外見で困っていることを話さないケースも多いようです。大人はどう察知したらよいでしょうか。
困っているのに口にしない時は、羞恥心が伴っているケースが多いようです。「外見のことをじつは気にしていた」と打ち明けるのは、ちょっと恥ずかしい。闘病による勉強の遅れなんかもそうですよね。自分から言ってくるのを待つ、という姿勢も必要かもしれません。
また、まわりの親や教師が完璧に見えると、本音を言いづらいかも。大人の側から「私だって完璧じゃないよ」と伝えることで、本音を打ち明けやすくなることもあるのではないでしょうか。