脳腫瘍と闘う音大生が念願のコンサート!医師との共演も

この記事は、2025年8月2日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: EBMの先へ/患者の願い叶える『CaNoW』Vol. 80 「脳腫瘍と闘う音大生が念願のコンサート!医師との共演も」のタイトルで掲載されたものです。

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幼い頃に脳腫瘍「退形成性上衣腫」と診断され、治療を重ねてきた倉本知眞さん(21歳)。治療の影響で左耳の聴力を失うなど、数々の合併症と闘ってきました。そうした中、いつも倉本さんのそばにあったのがピアノです。元ピアノ講師のお母さんとともに練習を続けてきました。知的障がいもある倉本さんにとって、決して平坦な道ではありませんでしたが、2022年には音楽大学に合格。「音楽の力で感動を与え、だれかの役に立ちたい」という願いを、お母さんがCaNoWにご相談くださいました。そこで今年3月、病気や障がいのある子どもたちを招いてコンサートを開催。当日の様子と、倉本さんのインタビューをぜひご覧ください。

難聴で人工内耳を装用、それでも続けてきたピアノ

倉本さんが退形成性上衣腫を発症したのは1歳の時。手術により小脳の腫瘍は完全切除しましたが脳幹の腫瘍は取り切れず、術後は抗がん剤治療を行い、2歳になるのを待って放射線治療を実施しました。しかし治療の影響で、内分泌疾患や脳機能障害など様々な晩期合併症が生じました。21歳になった今も、定期的な検査と、毎日の服薬が欠かせません。


脳機能のリハビリを目的に、3歳で始めたのがピアノです。しかし中学生の時には、音楽家にとって大切な聴力が完全に消失します。医師からは、「人工内耳を入れると腫瘍が再発してもMRIに映らないリスクがある」と説明されますが、QOLの向上を優先し、右耳のみ装用しました。その後も聴力のハンデや知的障がいに負けず、ピアノの練習に打ち込んだところ、めきめきと上達。音楽大学に合格する腕前となりました。

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脳腫瘍が見つかった1歳頃の倉本さん(左)。中学生の時には、右耳に人工内耳を入れる手術をした(右)。

NPO法人AYAとのコラボで、コンサートが実現!

倉本さんは、通院先の大学病院のホールで無料コンサートを開催し、病院を訪れる人たちへ癒しのひとときを提供していました。病気や障がいがあっても、自分が持っている力でだれかの役に立つ。それは倉本さんにとって大切な時間でした。しかし、コロナ禍以降はそれが難しく……。「また大勢の前でピアノを演奏する機会が持てたら」という願いを、お母さんはCaNoWに相談してくださいました。


CaNoWが実現方法を模索していたところ、特定非営利活動法人AYAの代表理事で医師の中川悠樹先生から「何かコラボイベントをしませんか」との連絡が舞い込みます。AYAは、病気や障がいのある子どもたちがスポーツや芸術、文化を体験できるイベントを企画・実施している団体です。中川先生と相談した結果、AYAの音楽イベントの中で倉本さんにピアノを演奏してもらうことで話がまとまりました。コンサート名は「AYAインクルーシブ 音楽フェスティバル in横浜」です。

本番前リハーサルで、プロの演者と音合わせ

コンサートが開催されたのは3月15日。当日の朝、横浜市にある音楽ホール「はまぎんホール ヴィアマーレ」に倉本さん親子が到着しました。


倉本さんはこれまで二度、他の演者たちとスタジオで事前リハーサルを行ってきました。しかし、本番直前のリハーサルでは、音合わせに少し手こずる場面も。補聴器をつけているため、周囲の音が聞きづらかったようです。しかし、次第に調子をつかみ、事前に猛練習してきた感覚を思い出していきました。

すべての子どもが受け入れられるインクルーシブな空間

そしてコンサートが開場。お客さんのほとんどは、病気や障がいのある子どもと、そのご家族です。車いすやバギー、ストレッチャーを使用する子どもも、次々と来場してきます。そうした子どもたちにとって、普段はコンサートに来ること自体が簡単ではありません。しかし今日はだれもが楽しめるインクルーシブな場。客席前方は座席が床下に収納され、みんなで鑑賞できるスペースが確保されていました。

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はまぎんホールヴィアマーレの会場。写真中央の床にうっすら見える四角い線が開き、床下に客席を収納できる。

開演冒頭、パーカッション兼司会の二見智祥さんが「今日は皆さん、声が出てもオーケー、歩いたりじっとしていなくてもオーケーです」「自由に歌うなり踊るなりしてください」とコンセプトを伝えました。


いよいよ始まったコンサートの第1部では、「ぼよよん行進曲」や「おもちゃのチャチャチャ」など、おなじみの曲が次々と飛び出します。歌と演奏を届けるのは、この日のために結成された「AYAドリームアンサンブル」の4人。客席からは手拍子やマラカスが鳴り、一気に賑やかに。


何かあればすぐ対応できるよう、ホールにはAYAの医療職のスタッフがスタンバイしていました。二見さんからは、演奏の合間に、「暑かったら近くのスタッフまで言ってください」「席の移動も自由です」など、子どもたちに配慮する言葉がさり気なくかけられます。


音楽に合わせて体を揺らす子、ジャンプする子、駆け回る子、声をあげる子など、みんな自分のペースで楽しんでいます。ここでは、ストレッチャーに横たわっていても、医療機器の音が鳴っても、気にする人はいないでしょう。すべての子どもが尊重され、受け入れられる、コンサートのタイトルどおりインクルーシブな空間です。

堂々たる演奏で、クラシック音楽の世界へ引き込む

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第2部はいよいよ倉本さんの出番。
「ピアノ独奏をしてくださいます倉本知眞さんです、拍手でお迎えください」
二見さんからの紹介を受け、黒のスーツに蝶ネクタイ姿の倉本さんが登場しました。


演奏するのはドビュッシーの「版画」より第3曲「雨の庭」と、ショパンのバラード第1番ト短調作品23。倉本さん自ら曲名を紹介し、演奏がスタートしました。


指先が繊細な音色を紡いだと思えば、力強く鍵盤を走らせ、聞く人をクラシック音楽の世界へと引き込みます。つらい時も嬉しい時も、ピアノとともに歩んできた人生。そのことが伝わってくるような迫力ある演奏に、心が揺さぶられます。


客席には感動の涙を流す人の姿もありました。病気を持ちながら、人一倍の努力でピアノと向き合う倉本さんに、わが子を重ね合わせているのかもしれません。大勢を前に、堂々たる演奏を披露した倉本さんに、惜しみない拍手が送られました。


15分間の休憩後、再びAYAドリームアンサンブルが登場し、第3部がスタートしました。
「夢をかなえてドラえもん」では、ボーカルの「どこでもドアー!」「タケコプター!」に合わせ、マラカスを高く掲げる子も。かと思えば、大人の心にもしみ入る「糸」など、家族みんなで楽しめるラインナップとなっていました。
最後の「ツバメ」では、再び倉本さんが演奏に参加します。さらにシークレットゲストとして、中川先生も登場。サックスを披露して会場をわかせました。


「音楽の力で感動を与えたい」を目標に、この日のために練習を重ねた倉本さん。コンサート終了後に見せた晴れやかな笑顔が、達成感を物語っていました。

患者会の仲間も演奏を聞きに来てくれた

コンサート直後の興奮冷めやらぬ中、CaNoWでは倉本さんにインタビューしました。

───演奏を終えて、今の気持ちをお聞かせください。

自分としても、いい演奏になりましたし、思い出にもなったので、よい機会だったと思います。あまり緊張はしなかったです。全部うまくいったのでよかったですね。ドビュッシーが一番うまくいったかな。

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───人工内耳の患者会の人も来てくださったそうですね。ご家族や知人だけでなく、色んな人に演奏を聞いてもらっていかがでしたか。

学校(音楽大学)の試験以外で、なかなかそうした機会はないので、これも一つの経験になるのかなと。患者会の人たちにも、ピアノが少しずつ上手になったのを見ていただいたのが良かったなと思います。

───ピアノを演奏したり、聞いたりすることの、どういうところが好きですか?

演奏して、自分にちょっと自信を持てるところか、他の人に少しでも喜んでもらえるところです。自分でも、素晴らしい演奏を聞けると感動します。

───耳が聞こえなかった時期もありながら、ピアノの練習をずっと続けてこられたのはなぜでしょう。

高校1年生ぐらいの時に、まわりと勉強の差があったので、「もう何もしたくない」と思っていました。でも、ピアノなら他の人よりもできる方だったので。「やっぱり人生で何もがんばらないのはもったいないかな、ピアノだけは続けようかな」と思い、音大も目指しました。

───倉本さんと同じように、病気と闘っている子どもたちにメッセージをお願いします。

病気のことでショックを受けたとしても、そこで一人で悩まずに、せめてだれか一人にでも意見を聞いた方がいいかなって思います。

掲載元媒体:m3.com

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