
病気や障がいのある子どもやご家族も、安心して音楽を楽しみたい――。そんな希望を叶えるコンサートが、神奈川県横浜市で開催されました。特定非営利活動法人AYAが主催した「AYAインクルーシブ 音楽フェスティバル in横浜」です。CaNoWとのコラボレーションにより、退形成性上位腫の治療の合併症と闘う倉本知眞さん(埼玉県在住・21歳)も出演し、ピアノの独奏を披露しました。このコンサートが実現した背景には、臨床医でありながらAYAの代表も務める中川悠樹先生の存在がありました(写真右)。コンサート実現の舞台裏や、AYAの活動について中川先生に伺います。(インタビュー前編)
ストレッチャーにも対応したホール探しに難航
───今回のコンサートには、車いすやバギーなどを使用しているお子さんから、聴覚過敏用のイヤーマフを着けているお子さんなど、ケアを必要とするお子さんが大勢来場されました。開催までのいきさつを教えてください。
AYAは病気や障がいのある子どもたちに「スポーツ・芸術・文化」に接する機会を提供し、新たな世界へ一歩踏み出すサポートをしている団体です。これまでスポーツ観戦や映画鑑賞など、様々なイベントを開催してきましたが、音楽イベントは個人的にずっと実現したいと思っていたんです。AYAの会員や関係者からも、「やってほしい」との要望を受けていました。じつは2023年に一度、金沢で音楽イベントを開催したことがあるのですが、今回のような本格的な音楽ホールで行ったのは初めてでした。
───開催にあたり、苦労したことはありますか?
ホールを決めるまでが大変でしたね。5か所ほど見学させてもらい、ようやく見つけたのが、今回の会場となった「はまぎんホールヴィアマーレ」です。このホールは、座席の一部が床下に収納できる構造なんですよ。前方の一列分を床下にしまってしまえば、車いすやバギー、ストレッチャーの子が鑑賞する広いスペースが作れます。理想のホールと出合えたことで、無事開催にこぎつけました。
演奏中、動いても騒いでも構わない
───お客さんもゆったりと鑑賞できますね。コンサートを終えて、中川先生の感想はいかがですか。
倉本さん、上手でしたよね。演奏に入り込んでいる姿や、それを見ているお母さんの表情もよくて、「やってよかったな」と思いました。私も最後に、サックスで演奏に加わりましたが、ものすごく緊張しました(笑)。この日に備えて、勤務先のクリニックの駐車場で練習していたんですよ。
───皆さん、素晴らしい演奏と歌でしたね。
出演してくれた「AYAドリームアンサンブル」は、この日のために特別に結成してもらったんです。以前から知り合いだったピアニストにお願いし、仲間を集めてもらいました。皆さんプロとして実績のある人ばかり。信頼して、曲目もすべてお任せしました。
───コンサートでは、司会の方から「声を出してもじっとしていなくてもオーケー」とのアナウンスがありました。実際、演奏中に立ち上がり、前方に行こうとするお子さんをお母さんが止めようとしたところ、中川先生がすかさず歩み寄り、「どうぞどうぞ」というように促す姿も見られました。
AYAではこういったことはよくあるんです。通常のイベントでは「子どもが声を上げたり動き回ったりして、周囲に迷惑をかけてしまうかもしれない」とためらっていたご家族も、気兼ねなく来場してもらえます。のびのびと過ごすわが子を見て、「気持ちが解放された」と言ってくれる人も多いですね。
病気や障がいのある子どもたちの社会参加を支援
───改めて、AYAの活動内容について教えてください。
AYAでは、医療職スタッフの同行など医療的なサポート体制を整えることで、病気や障がいのある子どもたちが社会活動に参加できるよう支援しています。これまで様々な企業や団体の協力を得てイベントを企画・実施してきました。
ここ数年は、SDGsやCSRの気運の高まりを受け、病気や障がいのある子どもたちに「何かしたい」と考えている企業や団体も多いと感じています。でも、もし医療的なトラブルが起こったらと考えると怖くて、踏み出すのが難しいのは無理もありません。非医療者に「それでもやるべきだ」と求めるのは酷だと思います。
企業や団体が安心して社会貢献活動を行えるようにサポートすること。その結果、子どもたちに素晴らしい体験を提供すること。このような形で、企業・団体と子どもたちをつなぐ架け橋となることが、私たち医療者が運営するAYAの役割だと考えています。
外に出ることで、受け入れる側の社会も変えてゆく
───直接診療する以外にも、医療者が子どもたちにできることは多いのですね。
そうですね。2025年度内には、すべての都道府県で映画上映会を実施します。2027年には、「誰でも映画館で映画を観られる日」と銘打って、これを全都道府県で同時開催できたらと考えています。近い将来には、スポーツの分野でも同様の取り組みをしたいですね。2030年までには、四半期に1回ぐらいの頻度で、このような全国同時開催のイベントデーを作るのが目標です。
───実現すれば、世の中にインパクトを与えそうです。
重要なのは、病気や障がいのある子どもの社会参加が進めば、彼らの存在を社会の側が認識できる点です。現状では、町でそうした子どもたちと接する機会はそれほど多くはありません。でも、みんなが社会に出るにはどんなサポートが必要で、何が壁になっているのかを知ることができれば、「うちもユニバーサルトイレに改装しよう」「車いす席が必要だよね」と発想できるようになり、理解と支援が進みます。
逆に言えば、病気や障がいのある子どもたちが家に閉じこもっていては、世の中は変わりません。ですからご家族には、「AYAが場を準備するので、思いきって外に出て行きませんか?」と背中を押しています。病気や障がいのある子どもとご家族、受け入れる側、互いの相乗効果でどんどん社会は変わっていく。そう期待しながらAYAの活動を続けています。

【プロフィール】
©特定非営利活動法人AYA
中川 悠樹 先生
2009年、京都大学医学部医学科卒業。京都大学医学部附属病院、田附興風会北野病院、三井記念病院、横浜労災病院にて、外科医・救急科医として勤務。現在は細谷腎クリニック 院長、エフバイタル株式会社 事業企画、ふじの町クリニック・健診センター 非常勤医師を兼任。産業医としてサービス業・IT 業・メーカー業など5社を担当している他、IHL(ヘルスケアリーダーシップ研究会)にも運営メンバーとして携わっている。2022年1月に任意団体AYAを立ち上げ、2023年6月に特定非営利活動法人AYAを設立。