自分の彫刻作品を見に行きたい
これまで

自分の彫刻作品を見に行きたい

No.
043
実現日
2023.12.05
ページ公開日
2024.04.05
コンテンツライター
保田明恵

彫刻家として活動するY.Mさん(63歳・男性、大分県在住)には、ずっと心に抱いてきた願いがありました。それは、2012年に徳島県に設置した、自身の彫刻作品を見に行きたいというものです。
「設置した場所は霊園で、彫刻設置後に外構工事が施行されました。私はその後、その場所を訪れることができず、最終的な仕上がりが自身の目で確認できていません。もう一度その地を訪れ、私の彫刻と周辺の環境を見てみたいと思っています」(Y.Mさん)


しかしY.Mさんには、ためらう理由がありました。遠位型ミオパチー(空胞型)の持病をお持ちだったからです。遺伝子の変異が原因で発症し、体幹に遠い手足から筋力が低下してゆく進行性の難病です。
現在の握力は0で、日常生活に支障をきたしています。自分の脚で歩くのも難しく、移動は電動車いすを使用しています。それでも夢を実現させたいと、CaNoWに応募されました。

安心安全な経路設定で、病気以来初の遠方旅行をサポート

CaNoWでは、Y.Mさんへのヒアリングを開始。具体的な不安要素として、病気をして以来、遠方へ旅行をしたことがないこと。また、作品の設置場所は、山道を通って行く奥地であるため、自力での訪問が難しいと考えていたことがわかりました。


そこでCaNoWでは、お体に無理のない移動手段を考えました。当初、Y.Mさんの希望ルートは、フェリーを使ったものでした。しかしCaNoWスタッフは経路や時間を確認した上で、より負担が少ない飛行機の利用をご提案。さらに現地での移動は介護タクシーを借り切ることにしました。


あきらめかけていた旅が実現へと向かう中、Y.Mさんから、さらなる旅のアイデアが飛び出しました。徳島県の歴史や文化に興味があることから、徳島県の名所である「三木家住宅」(美馬市)や「大麻比古神社」(鳴門市)も訪れたい。あわせて、目的地とは別に自作の彫刻がある「淡路夢舞台」(兵庫県あわじ市。淡路花博の跡地)にも立ち寄りたいというものです。
CaNoWでは、これらのスポットをすべて織り込んだ2泊3日の旅を計画しました。

ドライバーとの連携で、旅のプランを急遽アレンジ!

旅の1日目。自家用車で大分空港に姿を現したY.Mさんご夫妻を、CaNoWの看護師が迎えに上がります。車いすでの飛行機は初めてというY.Mさんのため、カウンターでの搭乗手続きから同行しました。


飛行機が伊丹空港(大阪府)に到着すると、CaNoWスタッフとともに介護タクシーに乗り込み、最初に向かったのは淡路夢舞台です。20年前に設置したという、アフリカ産の御影石で創った自身の彫刻作品が立っていました。作品名は「復興の音」。
「娘がちょうど生まれた時だったから、設置の時に連れてきたんだ」
と、懐かしそうなY.Mさん。
作品を愛おしむように、何枚も写真を撮影する妻のBさんの姿も印象的でした。

その後、Y.Mさんの「鳴門といえば渦潮。せっかくなら観光地もめぐりたい」とのアイデアを受け、旅のプランを急遽アレンジ! 鳴門海峡に架かる大鳴門橋の車道下を歩ける「渦の道」に立ち寄り、迫力満点の海上散歩を楽しんでいただきました。


そこからは、徳島県一の大社として知られる大麻比古神社へ。「ぜひ近くで見てみたい」と言っていたご神木とも対面。推定樹齢800年、鳴門市最大のクスノキの巨木です。
「パワーをもらえそう」
と、ご神木と記念撮影するY.Mさん。
その後はCaNoWが手配した、ホテルに1室しかないバリアフリールームで、旅の疲れを癒していただきました。

雨が見せてくれた神秘的な模様に感動

2日目。旅の最大の目的を実現するため、彫刻作品のある霊園へと向かいます。


到着すると、Aさんが待っていてくれました。Aさんは、Y.Mさんの作品を気に入り、制作を依頼した方です。
「12年前に『もう一度来ます』と伝えていたのに結局来られずにいたから、今回約束を果たすことができてよかった」とY.Mさん。長年の思いがあふれ出します。


そしていよいよ、作品との“再会”です。作品名は「天地人――循環する宇宙」。ウロボロスの蛇(口でしっぽをくわえた蛇をかたどった古代の象徴)をイメージして創ったもので、「循環、命、繋がり」がテーマです。

彫刻を設置した当時は、むき出しだったという基礎の部分には、石畳が舗装されていました。また、この日はあいにくの雨でしたが、そのおかげで彫刻の石の模様が浮き出ていました。作者の意図を超越した神秘の出現。これにはY.Mさんも「ウロボロスの模様のようだ。晴れている時は、模様が見えないんだよ。彫刻家をしていて模様が出た石は初めて見た」と、興奮を抑えられない様子です。


作品との再会をたっぷり楽しんだあとは、霊園近くにある三木家住宅を訪問しました。江戸時代に建てられた忌部一族の末裔である三木家の住宅で、国の重要文化財にも指定されている徳島県最古の民家です。三木家の28代当主である三木信夫さんが迎えてくれました。
Y.Mさんは、三木家の歴史について質問するなど話は尽きず、滞在は1時間にも及びました。

その後、タクシーでの移動中、またも予定外の展開が。ドライバーさんから、近くに「阿波踊り会館」(徳島市)があると聞き、興味を持ったY.Mさんの希望で立ち寄ることになりました。精巧なジオラマに見入ったり、阿波踊りのマネキンに合わせて夫婦でポーズを取ったりと、徳島県の伝統芸能の世界を楽しんでいただけたようです。

最終日は、CaNoWスタッフがお二人を伊丹空港まで送り届けました。
無事、3日間の旅を終えたY.Mさんからは後日、こんな感想が寄せられました。
「おかげさまで安心安全で楽しい旅程を過ごすことができました。この体験は大きく、日本各地にある自らの彫刻のある場所を再訪したり、国内の観光地や海外旅行にさえ挑戦してみたいと思えるようになりました」


車いすで飛行機に乗ったことのなかったY.Mさんが、海外にも目を向けるなんて! 今回の旅を実現できたことで、心の自由も手に入れたことが伝わってきました。


企画を終えて

Y.Mさん

「12年ぶりに施主様と再会し、果たせなかった約束を叶えることができて、いつも胸につかえていた思いが氷解しました」