お母さんに、再び料理を楽しんでもらいたい!
これまで

お母さんに、再び料理を楽しんでもらいたい!

No.
044
実現日
2024.03.23
ページ公開日
2024.09.12
プランナー
中島愛佳(M3)
同伴スタッフ
松原美香子、玉井彩水音(M3)
コンテンツライター
保田明恵

埼玉県に住む満尾みよ子さん(69)には、病気の後遺症による右半身麻痺があります。利き手が使えなくなったことから、以前は好きだった料理ができなくなってしまいました。「再び母に料理を楽しんでほしい──」。そう考えてCaNoWにご相談くださったのは、次男の裕行さんでした。

作業療法士の協力のもと、片手での料理にトライ!

みよ子さんがくも膜下出血で倒れたのは64歳の時。手術と薬による治療を受けて半年間入院し、リハビリにも励みました。しかし、右半身の麻痺と、高次脳機能障害により言葉が思うように出ないなどの後遺症が残りました。現在は、左手左足を利用して生活しています。

息子の裕行さんは3人きょうだい。育児に忙しかったみよ子さんは、一度に大量のおかずを作ることが多かったそうです。数日間同じメニューが続くこともありましたが、どれもおいしくて飽きることはなく、みんなで食卓を囲んだのがいい思い出だそうです。
「特に豚の角煮は、母の手作りよりおいしいものを食べたことがない」(裕行さん)

しかし半身麻痺となってからは、料理から遠ざかってしまいました。そこで裕行さんは、「片手で料理ができる道具があれば使って、また母に台所で料理を楽しんでもらいたい」と、CaNoWに応募くださったのです。

CaNoWでは、作業療法士の岩波貴也さんに、片手でできる料理法を教わりながら、みよ子さんに料理に挑戦していただく企画をプラニングしました。

釘付きまな板など、片手での料理を助ける道具

2024年3月、CaNoWが手配した公共施設の調理室(埼玉県行田市)に、みよ子さんと、裕行さんたちきょうだいと、その妻や子どもの6人が集合しました。

岩波さんとCaNoWは、片手で料理するのに便利な道具を用意していました。主に使ったのは次の3つです。
●釘付きまな板……まな板から突き出た釘に食材を刺し、固定できる。特にニンジンやじゃがいもなど転がりやすい食材を切るのに便利。
●吸着マット……スライサーやボウルなどが動かないよう、下に敷く滑り止めのマット。
●台置き型スライサー……両手を使わなくても野菜をスライスしたり、皮をむいたりできる。スライサーに乗せた野菜を動かすだけでいい。

●片手での料理に便利な「ワンハンド調理板」。釘に食材を固定して使う。左上の角にあるプレートは、食材が落ちるのを防いでくれる。

包丁の動かし方に戸惑うが、すぐにコツを習得

まずは、野菜の皮むき、カットなどの下ごしらえに着手しました。岩波さんが寄り添い、「ちょっとずつ刃先を入れていってみましょう」「体重を乗せると楽です。膝をちょっと柔らかくして」などと、道具の動かし方や、体に負担がかかりにくい姿勢をアドバイス。
ニンジンは、スライサーの刃に当てる面を変えながら皮をむいていきます。硬い大根も、釘に刺しては切る動作を繰り返し、きれいなイチョウ切りに。

●作業療法士の岩波さん(右)と、ニンジンを切るみよ子さん。
●台置き型スライサーに吸着マットをつけて、生姜をすり下ろすみよ子さん。

豚肉や鶏肉は切りづらく、「できない」と口にする場面もあったみよ子さん。
しかし、岩波さんに「硬い面を上にして包丁を当てましょう」などとアドバイスされ、すぐにコツをつかみました。時間がたつにつれて一人でどんどん料理を進めるほどに上達しました。これには岩波さんも「長年お好きで料理をしてきたからですね」と感心しきり。

みよ子さんは、具材を炒める、みそを溶かす、油で揚げるなどの行程も順調にこなし、山のようにあった食材は、おいしそうな料理へと姿を変えていきました。

●どんどんコツを思い出していくみよ子さん。次男の裕行さん(右)も優しく見守ります。

豚汁、唐揚げ、角煮…思い出の料理を家族で囲んで

できあがった料理を配膳し、家族みんなで囲みました。大ぶりの角煮、きつね色の唐揚げ、具沢山の豚汁。再現された思い出の味に、家族からは「おいしいね」と声が上がります。

そしてここで、サプライズ! 次男の裕行さんが家族を代表して、みよ子さんへの手紙を読み上げました。
「おかんのご飯を最後に食べたのは、おかんが倒れる1か月前のことでしたね…」
当時を振り返りながら、ありがとうの気持ちを伝え、みよ子さんの好きなピンク色の花束をプレゼント。家族の温かさがあふれるようなひと時でした。

●家族が大好きな、みよ子さんの手料理。豚の角煮、唐揚げ、豚汁。
●みんなで「いただきまーす!」。和気あいあいとした食事タイム。

後日、CaNoWにこんなメッセージが寄せられました。
「岩波さんが何もかも教えてくれて大満足! みんなでご飯を食べられて本当に嬉しかった」(みよ子さん)
「料理を作ることはもう無理なのでは…と思っておりましたが、作業療法士さんのお手伝いのもと、母も久しぶりの料理を楽しんでいました。その後、母と話すたびに『料理できたね、楽しかったね』と口癖のように言っており、私達家族も口を揃えて「本当に感謝しかないね」と言っております」(裕行さん)

「障がいがあるからできない」と思い込んでいたことが、少しやり方を変えれば可能となる。今回の企画が、みよ子さんの自信と、家族の喜びにつながったのは何よりです。

リハビリはその人のスタイルを尊重し、自分らしさを支援する

株式会社ワイズ
脳梗塞リハビリセンター本部副本部長、作業療法士
岩波貴也さん

CaNoWでは、作業療法士の岩波さんに改めてインタビューを行いました。

─── みよ子さんのように半身麻痺で利き手が使えない方が料理をする場合、どのような難しさが生じるのでしょうか。

岩波 料理に限らず、利き手ではない手で道具を操作する場合、手に力が入りすぎてしまいます。こわばった手を使おうと体ごと動かすため、全身の姿勢がアンバランスになり、作業を続けることが難しくなってしまうのです。また、手に余分な力が入ることで、道具の感覚もわかりにくくなります。

─── 今回、特に難しかった料理はありますか?

岩波 肉類、特に鶏肉は筋膜や皮があるので、包丁がすべって切りづらかったですね。そこで、私が肉を軽く引っ張って牽引をかけ、みよ子さんには、包丁の先の方をうまく使いながら、ちょっとずつ切れ目を入れて割いていく感覚で切ってもらいました。

─── 企画では、片手で料理をするのに便利な道具を使用していただきました。さまざまな道具があるのですね。

岩波 専用の物も売っていますし、100円ショップの物を活用することもできます。今回は、上から見ても分量がわかる計量カップも用意しました。ただ、あえて使いませんでした。みよ子さんは「料理は目分量」とのことで、きっちり計量するタイプではなかったからです。リハビリでは、決まったやり方を教えるのではなく、その人のスタイルを尊重し、自分らしくできるよう支援することが大切です。その積み重ねで自信を取り戻し、生活に対する意欲もわいてくるのではないでしょうか。

取材協力:株式会社ワイズ

企画を終えて

満尾みよ子さん

「みんなでご飯を食べられて本当に嬉しかった! 当日サポートしてくれたスタッフさん、本当に本当にありがとうございました!」(みよ子さん)