河辺宏太さんは16歳の高校生。先天性四肢欠損により左の前腕部がなく、外出する際は義手を着けています。更衣を含め、身の回りのことは何でも自分で工夫してきました。服を選ぶ際は、デザインより着脱のしやすさを優先しているそうです。高校生になってファッションへの関心が高まり、「好きなデザインの服を着たい」と願うように。義手を着けていても楽しめる服を知りたくて、CaNoW(※)に応募されました。

義手を使って感じる「着やすい服」「着にくい服」
先天性四肢欠損により左の前腕部がなく、義手を着けている河辺さん。日頃から、“着やすい服”“着にくい服”があると感じています。「着やすい服としては、オーバーサイズのTシャツですね。着たあとから義手を着けやすいので。逆に着にくい服は、かぶるタイプで厚手の服。義手がうまく袖に通らず、あとから袖をめくって義手を着けることもできません」
お店でデザインに目を引かれる服があっても、「脱ぎにくそうだな」と諦めることは少なくないそうです。結果的に、いつも同じような服ばかりになり、ファッションを楽しめないと言います。

フルオーダーではなく、あえて既製服をアレンジ
昨今、ファッション界において、障害がある人もない人も着やすい「ユニバーサル・デザイン」の服が注目されています。また、障害に合わせて着脱が容易な服をオーダーメイドする方法もあります。しかし、CaNoWチームはあえて「既製服を着やすいように工夫するプロジェクト」を考えました。気軽に購入できる服をアレンジすることで、より日常的にファッションを楽しめるようになるのでは、と考えたからです。オンラインのヒアリングで、河辺さんは「今まであまり着なかったボタンが多い服や、ネクタイのあるフォーマルな服、紐靴に挑戦したい」とリクエスト。CaNoWチームは、その道のプロの力を借りて、河辺さんの夢を叶える計画を練りました。
専門家のレクチャーで更衣の問題点を把握

スタイリストは、事前のヒアリングをもとに数種類のスーツやYシャツを用意。カジュアルパターンとして、パーカーもいくつか選んで来ました。河辺さんは「どんな服になるのか楽しみ半分、緊張半分です」とはにかんだ表情で語りました。

続いて、紐靴にチャレンジ。自分で紐を結ぶことができないため、今まで避けていましたが、この日はスタイリストが便利アイテムを用意していました。穴に通すだけで使える靴用のゴム紐です。ちょっとした工夫で、ファッションの選択肢が広がります。

障害があるから難しいと思っていたことが、実はだれにとっても難しいこと。人に相談することで、道が開けるという手応えを感じた様子です。
髪型、服、小物…今まで選ばなかったものに挑戦
数日後、河辺さんの姿は美容室にありました。ヘアスタイルを変え、スタイリストに選んでもらった服を着て“変身”する日が来たのです。美容師と相談しながら、どんな髪型にするか決めていきます。河辺さんがオーダーしたのは、ツーブロックで部分的に青いカラーリング。美容師から「いいね! こういう雰囲気、似合いそう」と言われて嬉しそうです。

その後、スタイリストが用意したスーツに着替えます。初回の打合せを踏まえて、スタイリストはカフスボタンにゴムでできたアジャスターを取り付けていました。義手を通しても引っかかることなく、ボタンを留めたまま着脱できます。

そして、以前から憧れていた腕時計は、ベルト部分を伸びる金具に変更。腕にはめるだけで、簡単に着脱できる仕様にリメイクされていました。随所に「伸びる」仕様にアレンジを加えることで、着やすさは格段に向上していました。
ファッションは自信をもたらし、人生を楽しくする

パーティションの影からスーツ姿の河辺さんが登場すると、お母さんはパッと笑顔に。いつもと違う姿に、「どなたですか?(笑)、かっこいいですね」と冗談を言うほど、喜びが溢れていました。
続いて、パーカーにショルダーバッグというカジュアルコーディネートに着替えると…。
お母さん「ああ、なんか韓国スターみたいな」
河辺さん「よくいわれます(笑)」
という微笑ましい会話が交わされました。

ファッションを通じて自分の可能性を感じる
ファッションが持つ力について、スタイリストはこう話します。「大げさかもしれませんが、人生を楽しくする要素の1つとしてファッションはあります。服選びは、障害の有無にかかわらず試したり、失敗したりの繰り返し。色んな服に挑戦してみてほしいですね」

「外見にこだわることは、自信をつける意味で大事なんじゃないかと思いました。髪型も服もいい感じにしてもらったので、自信を持って街を闊歩したいです」
ファッションを通じて、自分には大きな可能性があることを感じ、チャレンジする意欲が沸いたようでした。
※CaNoWとは、病気や障がいを理由にかなえられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクトで、企業やその従業員の寄付やサポートで患者さんの願いを叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。
このプロジェクトには、CaNoWの理念に共感したノバルティス ファーマ(株)の従業員が寄付しています。
このプロジェクトには、CaNoWの理念に共感したノバルティス ファーマ(株)の従業員が寄付しています。