「好きな服を着たい」義手を使う16歳の夢、プロ集団が叶える

この記事は、 2021年12月10日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 48 「好きな服を着たい」義手を使う16歳の夢、プロ集団が叶える」のタイトルで掲載されたものです。



河辺宏太さんは16歳の高校生。先天性四肢欠損により左の前腕部がなく、外出する際は義手を着けています。更衣を含め、身の回りのことは何でも自分で工夫してきました。服を選ぶ際は、デザインより着脱のしやすさを優先しているそうです。高校生になってファッションへの関心が高まり、「好きなデザインの服を着たい」と願うように。義手を着けていても楽しめる服を知りたくて、CaNoW(※)に応募されました。

義手を使って感じる「着やすい服」「着にくい服」

先天性四肢欠損により左の前腕部がなく、義手を着けている河辺さん。日頃から、“着やすい服”“着にくい服”があると感じています。
「着やすい服としては、オーバーサイズのTシャツですね。着たあとから義手を着けやすいので。逆に着にくい服は、かぶるタイプで厚手の服。義手がうまく袖に通らず、あとから袖をめくって義手を着けることもできません」

お店でデザインに目を引かれる服があっても、「脱ぎにくそうだな」と諦めることは少なくないそうです。結果的に、いつも同じような服ばかりになり、ファッションを楽しめないと言います。
懸命にネクタイを締める義手の河辺さん
また、日常生活にも影響があります。例えば、学校の制服のネクタイやベルトを外す時間が長くなり、体育の授業に遅れそうになったり、ワイシャツの袖ボタンを閉められなくて「開いているよ」と指摘されて恥ずかしい思いをしたり……。社会生活を営む上で、服がいかに重要な意味を持つかがわかります。

フルオーダーではなく、あえて既製服をアレンジ

昨今、ファッション界において、障害がある人もない人も着やすい「ユニバーサル・デザイン」の服が注目されています。また、障害に合わせて着脱が容易な服をオーダーメイドする方法もあります。しかし、CaNoWチームはあえて「既製服を着やすいように工夫するプロジェクト」を考えました。気軽に購入できる服をアレンジすることで、より日常的にファッションを楽しめるようになるのでは、と考えたからです。

オンラインのヒアリングで、河辺さんは「今まであまり着なかったボタンが多い服や、ネクタイのあるフォーマルな服、紐靴に挑戦したい」とリクエスト。CaNoWチームは、その道のプロの力を借りて、河辺さんの夢を叶える計画を練りました。

専門家のレクチャーで更衣の問題点を把握

河辺さんの服をコーディネートするスタイリスト
ある日、河辺さんが訪れたCaNoW事務局には、ファッションスタイリストと理学療法士(PT)が待っていました。

スタイリストは、事前のヒアリングをもとに数種類のスーツやYシャツを用意。カジュアルパターンとして、パーカーもいくつか選んで来ました。河辺さんは「どんな服になるのか楽しみ半分、緊張半分です」とはにかんだ表情で語りました。
義手を確認する理学療法士
さっそく試着し、何が着脱の障壁になっているのか、PTが丁寧に確認します。一番の問題は、Yシャツの袖口部分でした。義手は幅が広いため、袖口の切り込みが浅いと引っかかってしまいます。切込みの深いものを選ぶか、何かしらのリメイクが必要と判断しました。

続いて、紐靴にチャレンジ。自分で紐を結ぶことができないため、今まで避けていましたが、この日はスタイリストが便利アイテムを用意していました。穴に通すだけで使える靴用のゴム紐です。ちょっとした工夫で、ファッションの選択肢が広がります。
穴に通すだけで使える靴用のゴム紐
河辺さんは今まで、服の着脱のコツを教わったことはなかったそうです。この日は、PTとスタイリストにネクタイをうまく結ぶ方法など、以前から知りたかったことを質問。すると「それは普通の人(両腕がある人でも)も練習しないと難しいですよ」という回答が返ってくる場面が何度もありました。
障害があるから難しいと思っていたことが、実はだれにとっても難しいこと。人に相談することで、道が開けるという手応えを感じた様子です。

髪型、服、小物…今まで選ばなかったものに挑戦

数日後、河辺さんの姿は美容室にありました。ヘアスタイルを変え、スタイリストに選んでもらった服を着て“変身”する日が来たのです。

美容師と相談しながら、どんな髪型にするか決めていきます。河辺さんがオーダーしたのは、ツーブロックで部分的に青いカラーリング。美容師から「いいね! こういう雰囲気、似合いそう」と言われて嬉しそうです。
どんな髪型にするか美容師と相談する河辺さん
鏡の前でどんどん変わっていく河辺さん。ヘアスタイルが完成すると「今までにない感じ。自分でないみたい」と驚きを隠せません。

その後、スタイリストが用意したスーツに着替えます。初回の打合せを踏まえて、スタイリストはカフスボタンにゴムでできたアジャスターを取り付けていました。義手を通しても引っかかることなく、ボタンを留めたまま着脱できます。
ボタンを留めたまま着脱できるようカフスボタンにゴムでできたアジャスターを取り付け
ベルトは、穴の位置が決まっていないメッシュ素材をセレクト。以前、お母さんが買ってきてくれたガチャベルト(バックル部分で調節するタイプのベルト)はうまく着けることができず、棚の奥に眠らせていたという河辺さん。今回のベルトは片手で簡単に着けることができ、満足そうです。
そして、以前から憧れていた腕時計は、ベルト部分を伸びる金具に変更。腕にはめるだけで、簡単に着脱できる仕様にリメイクされていました。随所に「伸びる」仕様にアレンジを加えることで、着やすさは格段に向上していました。

ファッションは自信をもたらし、人生を楽しくする

お母さんとご対面する変身した河辺さん
準備が整ったところで、プロジェクトを応援してくれたお母さんとご対面です。
パーティションの影からスーツ姿の河辺さんが登場すると、お母さんはパッと笑顔に。いつもと違う姿に、「どなたですか?(笑)、かっこいいですね」と冗談を言うほど、喜びが溢れていました。

続いて、パーカーにショルダーバッグというカジュアルコーディネートに着替えると…。
お母さん「ああ、なんか韓国スターみたいな」
河辺さん「よくいわれます(笑)」
という微笑ましい会話が交わされました。
カジュアルなパーカー姿の河辺さん
お母さんは、河辺さんが幼い頃から障害があることにフォーカスせず、「普通の子」として育ててきたそうです。左手が義手のため、カフスボタンが留められないという話にも「え、それに困っていたんだね」とつぶやき、河辺さんがあきれるような場面も。どこにでもいる普通の親子であり、普通の高校生なのです。今回、普通の既製服をアレンジすることで、河辺さんのファッションの幅は大きく広がりました。

ファッションを通じて自分の可能性を感じる

ファッションが持つ力について、スタイリストはこう話します。
「大げさかもしれませんが、人生を楽しくする要素の1つとしてファッションはあります。服選びは、障害の有無にかかわらず試したり、失敗したりの繰り返し。色んな服に挑戦してみてほしいですね」
壁際にスーツ姿でたたずむ河辺さん
河辺さんは、今回のプロジェクトを振り返って、こう語りました。
「外見にこだわることは、自信をつける意味で大事なんじゃないかと思いました。髪型も服もいい感じにしてもらったので、自信を持って街を闊歩したいです」

ファッションを通じて、自分には大きな可能性があることを感じ、チャレンジする意欲が沸いたようでした。
※CaNoWとは、病気や障がいを理由にかなえられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクトで、企業やその従業員の寄付やサポートで患者さんの願いを叶えていきます。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

このプロジェクトには、CaNoWの理念に共感したノバルティス ファーマ(株)の従業員が寄付しています。

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