理学療法士の方のアドバイスを受け簡単に服を着られる方法を練習し、当日は髪の毛を染め、プロのスタイリストが選んだ服で写真撮影をしました。
当時は自身の身体を「不自由」とも「特別」とも感じることなく、ごく普通の少年として過ごしていたそうです。
本記事では、その後の進学や多様なコミュニティとの出会いを経て感じる「その先」をお話しいただきました。
※「障害」、「障がい」表記について
本記事では、「障害」という表記を採用しています。
インタビューにご協力いただいた河辺様の「言葉の形式的な配慮よりも、社会の側にある壁という本質を直視したい」という意思に基づき、これは、「障害」を個人の問題ではなく、社会側にある制約(本質的な課題)として問い続けたいという、ご本人の信念を尊重したものです。

お名前:河辺 宏太 さん
年 齢:20代
疾患名:先天性上肢欠損(左前腕)
1. 自分の「日常」と、見た目で判断される「不自由」
多くの希少疾患や身体的特徴を持つ人々にとって、人生の大きな転換点は「異変」に気づき、診断名がつくまでの孤独な道のりであることが多いです。しかし、河辺さんの場合は、生まれた瞬間からその身体が「日常」でした。
CaNoWに参加した時も、オシャレを楽しみたいと願う、思春期で年相応の少年でした。
「僕にとってはこれが『普通』で、何かが足りないという感覚すら自分の中にはなかったんです」と彼は振り返ります。
彼にとっては、身体的な不自由さではなく、成長とともに周囲から突きつけられる「あなたは他の子とは違う」という周りから押し付けられる不自由さでした。幸運だったのは、お母様が彼の身体を当たり前として重く捉えずに見守り続けてきたことです。
この家族の眼差しが、彼が自身の身体をありのままに肯定できる土台となりました。
しかし、同じ身体的特徴を持つ人々が集まるコミュニティに関わり始めたことで、彼の視座は一変します。そこでは自分の名前よりも先に「体のどの部位か」「先天性なのか、後天性なのか」といった身体的な特徴で分類されたような経験でした。
それまで一人の「自由な少年」であった彼は、この時初めて、社会的な「障害者」というカテゴリーに組み込まれる自分を、客観的な視点で意識し始めたと語ります。
2. ラベルを「武器」に変換する
16歳の頃の河辺さんは、まだ自分の身体について深く思い悩むことはありませんでした。しかし、美術大学への進学を志す中で、彼は自身に貼られた「障害者」というラベルを拒絶するのではなく、むしろ強力な「表現の武器」へと転換させる決断をします。
大学受験やその後のアーティスト活動において、彼はあえて「義手を使う表現者」という分かりやすいラベルを自ら選択したそうです。それは、自分の運命に酔うことではなく、社会に対して自分という人間を最も効果的に提示するための、戦略的選択でした。
SNSでの発信を始めたときも、「義手」をテーマとしたコンテンツが拡散されていく現状を、「そういうラベルがあれば認められる社会なんだ」と冷静に分析しています。
「ちゃっかり利用し続けている自分もいる」と語るその潔さは、自己の境遇を悲劇としてではなく、武器として利用する、現代的なたくましさを感じさせます。
現在彼が美術大学で研究している「ハプニング・アート」もその延長線上にあります。
かつて障害者が権利を求めてバスに乗り込んだ過激な活動を「最高のアート」と捉える彼は、公共の場でのアートパフォーマンスを通じて、社会の側にある既成概念や「見えない壁」を壊し、新しい視点を提示することに情熱を注いでいます。
3. 未来へ繋ぐメッセージ
インタビューの最後、16歳の自分へかける言葉を尋ねると、彼は少し懐かしさを込めて答えました。 「あの頃の自分は、今の僕よりもずっと純粋に、障害を意識せずオシャレを楽しみたいと願っていた。その真っ直ぐさを、忘れないでほしい」。
そして今、自らの身体的特徴や病名に戸惑い、アイデンティティの置き場を探している人々へ、彼は現実的で温かなエールを送ります。
「自分の特徴を、社会の中で戦略的に『利用』することは、決して卑怯なことではありません。それは、この社会を自分らしく生きていくための知恵なんです」。
しかし、彼の真の願いはその先にあります。 最初は「義手」や「病名」という記号で注目されたとしても、対話を続けるうちにそのラベルは薄れ、最後には一人の「個人」が残る。 「『そういえばあの人、そうだったね』と後から思い出されるくらい、ただの自分として誰かと笑い合える時間を、何よりも大切にしてください」。
記号の檻を飛び越え、圧倒的な「個」として生きる彼の姿は、同じ葛藤を抱える多くの人々に、温かなメッセージと、新しい自由の形を示してくれました。
https://canow.com/2021/12/06/wish024/
https://canow.com/group/article049/
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