『ガンツウ』堀部氏が語る、建築家が医師から学ぶべきこと

この記事は、2020年7月17日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 25 ガンツウ設計者 建築家堀部氏が語る、医師から学ぶべきこと」のタイトルで掲載されたものです。




瀬戸内の海を漂いながら、穏やかに過ぎゆく時間を愉しむ小さな船宿『ガンツウ』をご存知でしょうか。
ラグジュアリーでありながらも、“素”に戻り自然に溶け込むような感覚に包まれる…そんな唯一無二の船『ガンツウ』を設計したのは、日本を代表する建築家のひとり堀部安嗣氏。過去には『ある町医者の記念館』『浜松の診療所』を手掛け、医師とも浅からぬ繋がりを持つ堀部氏がCaNoWとエムスリーの独占取材で語った『ガンツウ』への思いとは…。堀部氏が考える、建築家が医師から学ぶべきことも合わせてご紹介します。

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自然と一体になり、心からリラックスできる体験を

瀬戸内海に浮かぶ小さな宿『ガンツウ』。全十九の客室はすべて海面を間近に望むスイートルーム。2泊3日の航路では、穏やかな瀬戸内海をたゆたいながら、変化する山の稜線や多島美を愉しみます。
瀬戸内海を進むガンツウ
水面に溶け込むライトグレーの外観とは一転、船内は木材をふんだんに使用したぬくもりあふれる空間。客室やラウンジには大きな窓、テラスや縁側は風が通り抜ける開放的な空間で、誰もが心と体が解き放たれる感覚を味わうことができるでしょう。
木材をふんだんに使用したぬくもりあふれる空間の船内。風が通り抜ける開放的なテラス
大きな窓がある客室
幼いころから日常的に港や船に親しみ「人々の文化や風土をつなぐ“乗り物”が大好きだった」という堀部氏。ガンツウ設計の話を打診された際には、心が湧きたつような感覚を覚えたと言います。

堀部氏:
ガンツウの設計でなによりも優先したのは、瀬戸内の自然の邪魔をしない。独自の世界観を脚色するのではなく、あるがままの素晴らしさをそのまま体感できるような船にする、ということです。宝物のような風土や歴史、伝統、人々の営為、こうしたものに創作や演出を加えるのではなく、等身大に伝えることを考えました。

瀬戸内の自然を邪魔しないのと同様に、ここで過ごす人々も“素”に戻ることができる空間であることも大切です。たとえばガンツウでは木材を多用していますが、客室では素足で心地よく過ごせるよう、木目を際立たせる“浮造り”という加工を採用しました。また、窓枠で景色をフレーミングする方法、障子や縁側を取り入れるなど、設計には私の内から自然と湧き出てきた日本古来の伝統や文化も息づいています。

大切なのは目に見えるものだけではありません。ストレスなく滞在ができるよう、人々の目線の高さや導線など、細かな調整を幾度も繰り返しました。お客様はもちろん、働くスタッフにとっても、ストレスのない導線を考えています。

───ご苦労も多かったのでは?

えぇ、建造は「常石造船」さんとの二人三脚で行いましたが、ガンツウのような船は日本に前例がないため、建築基準法のように明文化された法律もありません。そこで、何度も国土交通省と相談を重ね、ガンツウのコンセプトを理解していただくことからのスタートでした。船に木材を使用する許可が出てからも、客室に使用する木材は不燃処理を施さなければならず、材料選びには苦心しました。不燃材料を施した木材は風合いが出ないことが多く、試行錯誤の末、諦めかけた最後の最後に、素晴らしい風合いの木材が完成しました。あくまでもこれは一例です。あらゆる場所の、あらゆる木材が、すべて「適材適所」でまかなわれ、すべてがハーモニーとして完成しているのです。
堀部安嗣氏

───たしかに、船内や客室に足を踏み入れた瞬間、ふっとなじむような感覚がありました。

皮膚感覚になじみますでしょう?私も初めて完成したガンツウに乗船したときには、自然になじみ、さらに航海を続けるうちに現代の生活でにぶってしまった五感が研ぎ澄まされていくのを感じました。素材と、空間と、生身の人間の感覚が親密に繋がっていくことで、心からリラックスができる。こうしたことをぜひ体感いただきたいです。

───たしかに豪華客船と聞くと、構えてしまうことも多いですが、ガンツウならばドレスコードもなく、素のままの自分で過ごすことができる。多忙な毎日を過ごす現代人にこそ、体験してほしいですね。

25年前から変わらぬ思いと、医師から学ぶべき反省点

───生身の人間がストレスなく過ごすことができ、自然や文化になじむ建築。と言うお話がありましたが、これは堀部先生の『ある町医者の記念館』や『浜松の診療所』にも共通しているものなのでしょうか?

はい、処女作の『ある町医者の記念館』を手掛けてから25周年になりますが、当時から思いは変わりません。例えば診療所の場合ですと、やってくる患者さんは何かしら負の状態を持っているわけですが、そこで働く医療従事者は対局の状態にある。目的とまなざしが違う人たちが混ざり合い、共存している。良い建築と言うのは、訪れる人、ゲストはもちろん快適ですが、運営している人にとっても快適なものです。
ある町医者の記念館
ある町医者の記念館
浜松の診療所
浜松の診療所
もっとも難しいのは住宅です。住宅を購入される際はみなさん、お若く元気でエネルギーに満ちていることが多いのですが、長い暮らしの中では心が落ち込むことや病気になることもあるでしょう。その時点だけでなく、50年60年と言う先を見て、長い間ストレスなく、無理がなく暮らすことのできる、インクルーシブな設計を考えています。

───現在も一個人が堀部先生に住宅や診療所の設計をお願いすることは可能なのですか?

もちろんです、ただ対話し心を通わせて、時間をかけてお互いのことを確認していくために、お時間がかかることはご理解いただきたいです。

実際に私のクライアントには医師も多いのですが、医師と建築家の仕事は「生身の人間を相手にする」という点がよく似ているなと感じます。こんなことをしたら弱る、傷つく、元気になる。一人一人の相手をしっかり見る。医師と言うのはまさにそれが基本ですよね。

建築の場合、戦後、特にここ数十年、この「生身の人間を見る」という基本から外れた表現が増えてしまった。「こんな建築凄いでしょう?」と華やかさや美しさ、花火のようなパッと見て他を圧倒するような建築が席巻してしまいました。たしかにこうした建築は、魅力的ではあるのですが、その魅力は持続できるものとは異なります。毎日は続けられないし、結局は生身の人間を軽視してしまっているのです。

建築家も医師のように「生身の人間を見る」という基本に立ち返る、そういう時代になって来たんじゃないかと思います。
せとうちクルーズ ガンツウ
〒720-0551 広島県尾道市浦崎町136番地6
【TEL】0120-489-321
【HP】https://guntu.jp/
【OPEN】10:00〜18:00(水曜・年末年始休み)

堀部安嗣設計事務所
【HP】https://horibe-aa.jp/index.html
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※CaNoWとは病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクト。ガンツウでは『娘とクルーズ旅行がしたい』という、子宮体癌闘病中の女性医師の願いを叶えました。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。
掲載元媒体:m3.com

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