「第二波の鍵は開業医にあり」―女子医大新浪教授に聞く

この記事は、2020年8月14日に、医療従事者向けWEBメディア「m3.com」内に、
「特集: 患者の願いを叶える『CaNoW』Vol. 29 「第二波の鍵は開業医にあり」―女子医大新浪教授に聞く」のタイトルで掲載されたものです。

新浪 博士(にいなみ ひろし)先生

新型コロナ禍のいま、東京都下の医療を守る砦のひとつとして日夜奮闘を続ける東京女子医科大学病院。院内感染を防ぐための徹底した医療安全システムを構築すると同時に、新浪博士先生率いる心臓血管外科病棟では、全国に先駆けて「オンライン面会システム※」を導入するなど、患者サービスにも力を入れています。本連載ではこれまで、日本のトップ心臓外科医の御一人である新浪先生が、新型コロナ禍中で感じた医療の実情、そしてオンライン面会システムの意義について紹介して参りました。最終回となる今回は、渦中に生まれた家族の時間、そして第二波克服の鍵について伺います。

※エムスリーの患者支援事業CaNoW(カナウ)とソニー株式会社の協業により、COVID-19に伴う面会制限への対応策として考案。ソニーのスマートフォンXperiaTM(エクスペリア)を用い、「誰でも簡単にワンタッチで操作ができる遠隔面会」を実現。

24時間365日体制から「陸に上がった河童」に

─── 新浪先生はかねてより、心臓外科医の仕事は「24時間365日」とお話していらっしゃいますが、コロナ禍でお考えに変化はありましたか?

患者さんはいつ急変するか分からない、だからこそ24時間365日 外科医であるという心構えが必要だという思いは今も変わりません。しかし、COVID-19で心臓手術数が激減すると(詳細はこちら)「陸に上がった河童」みたいなものです。

さらに、これまでは国内外合わせて月に2~3回は出席していた学会が一切無くなったことも大きなインパクトでした。講演の準備をする必要もないので時間的なゆとりが生まれ、全体の仕事量が、半分ほどに減少した時期もありました

私生活の話をすると、私には中学校3年生の息子が一人おります。これまで育児や教育は妻に任せきりでしたが、毎日18時には帰宅できるようになったので、一緒に宿題をやることもありました。COVID-19は全体で見れば当然マイナスが大きいのですが、こうした家族の時間を持つことができたのは、プラスであったと感じています。

普段、私は7時前には家を出ますし、同じく医師の妻も8時過ぎには仕事に出かけます。息子は中学校が休校になり家で一人きり、メンタル面の不安もあったのではないでしょうか。「学校が始まらなければいいのに、宿題なんてもういいよ」などと漏らすことがあり、まさか自分の息子が…と非常に驚いたものです。

現在は毎日学校に通っていますが、もしあのとき、忙しいままで息子を放置していたら、立ち直ることができただろうか…と考えると、やはり家族の時間が取れたことはよかったと思います。息子がどう思っているかは分からないですけどね(笑)

セカンドウエーブでも「日常診療を止めない」鍵は開業医にあり

─── これまでお忙しく過ごされてきた新浪先生にとって、ご家族とのお時間は本当に貴重なものですね。

こうした「悪いことばかりではないよね」という声は、開業医の先生方からいただいたお手紙の中でも目にすることがありました。

─── 開業医の先生方との交流がおありなのですね?

はい、COVID-19の拡大以降、知り合いの開業医の先生方から「いやもう、大変だ」「クローズしなければならないかも」という声を聞くことがありました。私たち高度医療を提供する大学病院というのは、前段階の中小病院、さらにその前の段階のクリニックがしっかり機能していなければ、患者さんが来ないのです。

とにかく、患者さんにとっての入り口である開業医の先生がダウンしてしまうと、その先の病院、医療全体が機能しなくなってしまう。そういう風に思っておりますので、何とかして、開業医の先生方を励ます方法はないかと考えていました。

私たちにできることは本当にわずかなのですが、「これはずっと続くわけではないかから、一緒に頑張りましょう」というメッセージをお届けしました。

─── なるほど。ぜひ、m3.comをご覧の医療従事者の皆さまにも一言エールをいただけませんか?

今回のことは…皆さまご存知の通り、クリニックも、中小病院も、大学病院も、どこなら大丈夫、ということがないわけです。

当院では職員が4,000人いて、1人でもCOVID-19が出れば蔓延してしまう、という緊張感の中でやっていますが、開業医の先生方、お一人で診られている方などはまた別の大変な思いをされている。来院される患者さんが、もしCOVID-19だったら?という思いと戦いながら診療されていますから、どこもみんな一様に、大変な事態。精神論になってしまいますが、みんなで頑張るしかない、という状況ですよね。

ただし、まだまだCOVID-19が減らない中ではあるものの、徐々に対処の仕方も分かってきました。一般の患者さんにとって一番大切なのはCOVID-19によって「日常診療を止めない」ということではないでしょうか。これからセカンドウエーブがやって来たときに、しっかりと対処をして、日常診療をストップさせない。お互い協力してやっていければと思います。
COVID-19拡大下、東京都下の医療を守る砦のひとつとして奮闘の続く東京女子医大病院。心臓血管外科教授の新浪博士先生にお話を伺いました。 新浪先生がCOVID-19感染拡大下で感じた医療の問題や、面会制限への対応策として導入した「オンライン面会システムについても、ぜひ合わせてご覧ください。

新浪 博士(にいなみ ひろし)先生

【ご略歴】
新浪 博士(にいなみ ひろし)先生
東京女子医科大学病院 心臓血管外科教授

1962年神奈川県横浜市生まれ。群馬大学医学部卒業後、東京女子医科大学大学院修了。
東京女子医大附属日本心臓血圧研究所(現 心臓病センター)に入局し、米ウェインステート大学、豪アルフレッドホスピタル等に留学。
帰国後は順天堂大学医学部附属順天堂医院を経て埼玉医科学病院心臓血管外科教授。
2017年より現職。現在、国内外で年間約700症例の心臓血管外科手術に関わる、日本のトップ心臓外科医の一人。



※CaNoWとは病気や加齢などを理由に叶えられなかった「やりたいこと」の実現をサポートするプロジェクト。これまでに「大好きなサッカーチームをスタジアムで応援したい」「病に倒れてから一度も行けていない職場へ、もう一度行きたい」「生まれ育った土地をもう一度観に行きたい 」などの願いをサポートしてきました。詳細はCaNoW公式ホームページをご覧ください。

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